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会長声明・決議

取調べの全過程の可視化(録画・録音)を求める会長声明

わが国における取り調べは、密室で行われている。刑事裁判の実態が、自白偏重を脱していないこともあり、取調べにおいては、捜査機関にとって自白の獲得が至上命令となり、自白の獲得のために、長時間に及ぶ過酷な追及が行われがちである。

その結果、日本国憲法及び刑事訴訟法の定める、被疑者・被告人の黙秘権保障や自白の強要禁止の規定は有名無実化され、暴行、脅迫、侮辱、威嚇、詐術、人格攻撃などによる人権侵害が行われ、これらによって獲得された虚偽の自白が、冤罪や誤判のもととなってきた。

死刑確定後再審無罪となった免田事件、財田川事件、島田事件、松山事件などを始めとして、冤罪の例は枚挙にいとまが無い。

近時も、2000(平成12)年3月に、松山地裁宇和島支部において、密室の取調べで虚偽自白に追いやられて起訴され、窃盗、有印私文書偽造・同行使、詐欺被告事件の審理を受けていた男性が、1年以上勾留され裁判を受けている間に、偶然真犯人が見つかり、判決を控えた時期に釈放され、無罪となる事件が発生した。 本年1月には、富山県において、強姦、強姦未遂事件において虚偽の自白を強いられた結果有罪判決を受けた者が約2年服役した後に、偶然、真犯人が発見されたために、無実であったことが判明した。

本年2月には、鹿児島地方裁判所は、公職選挙法違反被告事件について被告人12名全員に無罪判決を下し、判決は確定した(志布志事件)。この事件においては、被告人12名中6名までが虚偽自白に追いやられた。この事件は、捜査機関の描いたシナリオに従い、ありもしない買収会合を、複数の者が虚偽自白させられたという、密室での取調べの行き着くところをあますところなく示す事件であった。

本年3月、福岡高等裁判所は、一審の佐賀地方裁判所に続き、佐賀3女性連続殺人事件の被告人を無罪と判断した。この事件でも被告人は別事件での身柄拘束中に「任意取調べ」として調べられ、虚偽自白の上申書を書かされている。

これらのケースは、「やっていなければ自白するわけがない」という議論がいかに現実を反映しないものかを、如実に示した。

違法、不当な取調べと、虚偽の自白による冤罪を防ぐためには、長期間代用監獄で警察のもとに身柄を拘束される実態を改革し、伝聞法則を徹底させる方向で自白調書の証拠能力を再検討することが必要であり、そして、取調べを可視化することが必要である。

取り調べ過程が記録され外部者の監視できるところとなることは、密室での違法な取調べを抑制するための最も優れた手段である。

従来、自白調書の任意性、信用性が争われると、調書作成者である警察官に対する取調べ状況についての尋問等に膨大な時間が費やされ、それでも、必ずしも取調内容や被疑者の供述過程が明らかにならない問題があった。録音、録画さえあればそのような不毛な証拠調は不要とできる。

また裁判員裁判においては、市民にわかりやすい審理やできるだけ明瞭な証拠提出を心がけ、裁判員に過大な負担をかけないことが求められている。上記のような自白調書の任意性、信用性についての証拠調べは裁判員裁判に適合しないことは明らかである。

諸外国では、既に多くの国で可視化が実施されている。そして、現代の録画、録音技術をもってすれば、可視化は技術的、コスト的にも容易なことである。

最高検察庁は、2006(平成18)年、取り調べの録画・録音の試験的実施を行うと発表し、一部で試行している。しかし、最高検察庁の方針は、検察官による調べについてのみ録画・録音を行うもので、対象事件、録画・録音する範囲も検察官の裁量にゆだねられるものである。それでは、録画・録音する範囲に警察官の取調べが含まれない点、検察官調べの一部を恣意的に録画・録音して、作為的に、任意性を印象付ける材料とするのを排除できない点で問題があり、到底、可視化の趣旨を満たすものとはいえない。

よって、当会は、取り調べの全過程の可視化を求める意見を表明する。

そして
  1. 国に対し、裁判員制度の実施を目前に控え、速やかに、被疑者調べの全過程を録画・録音し、これを欠くときは、証拠能力を否定する法律を整備することを求めるとともに、
  2. 検事総長、警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、各捜査機 関の捜査実務において、被疑者または弁護人が求めたときは、即時に被疑者調べ 全過程の録画・録音を実施すること
を求める。

2007(平成19)年6月11日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里