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滋賀弁護士会について

過去の会長決議・声明

給費制1年延長に関する会長声明

給費制1年延長に関する会長声明

司法修習生に対する給費制を1年間延長する「裁判所法の一部を改正する法律」の成立にあたっての会長声明

2010(平成22)年11月26日、司法修習生に対する貸与制の施行を2011(平成23)年10月31日まで延期する「裁判所法の一部を改正する法律」が成立した。これにより、2010(平成22)年11月から修習を開始した新第64期司法修習生に対して、従前と同様、給与が支給されることとなった。

当会では、これまで、街頭宣伝、署名活動や議員要請活動を行うなどの運動に取り組んできたところ、今回の法改正が実現したのは、この問題について理解頂き、署名等に協力頂いた市民の皆様、共に活動頂いた市民団体の皆様、問題の所在や当会の活動を報道頂いたマスコミの皆様、困難な国会状況の中でご尽力頂いた国会議員の皆様、その他関係各位のおかげであり、心より感謝申し上げる次第である。

今回の法改正に関し、衆議院法務委員会の附帯決議では、政府及び最高裁判所に対し「個々の、司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じること」、「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」を求めている。

当会は、法曹志望者が経済的理由から法曹への途を断念することのないよう、司法修習生に対する給費制をはじめとする法曹志望者に対する恒久的な経済的支援の必要性を継続して訴えていくと共に、法曹養成制度全体の在り方について検討を加え、広く市民の理解を得られるよう努力する所存である。そして、政府及び最高裁判所に対しては、これら問題を検討する機関を直ちに設置することを求めるものである。

2011(平成23)年1月12日

滋賀弁護士会 会長 田口 勝之

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秋田弁護士会会員殺害事件に関する会長声明

秋田弁護士会会員殺害事件に関する会長声明

本年11月4日午前4時5分ころ、秋田弁護士会所属の津谷裕貴弁護士が、同弁護士の自宅を訪問した男から刃物で腹部等を刺され、搬送先の病院で死亡する事件が発生した。

この事件の詳細は未だ不明な点が多いが、これまでの報道によれば、弁護士業務に関連して発生した可能性が高い。

仮にそうであれば、かかる行為は、凶器を用いた暴力によって弁護士業務を妨害しようとするものであり、司法制度及び法秩序に対する重大な挑戦であって、到底許されるものではない。

本年6月にも、横浜弁護士会所属の弁護士が、業務に関連して殺害される事件が発生しており、今回、再び弁護士が暴力によって命を奪われたことは痛恨の極みである。

当会は、暴力による弁護士業務の妨害に対し、毅然と対処し、決して臆することなく、基本的人権の擁護と社会正義の実現のために全力で職務を遂行する決意であることをここに声明する。

2010(平成22)年11月8日

滋賀弁護士会 会長 田口 勝之

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司法修習生に対する給費制の存続を求める決議

司法修習生に対する給費制の存続を求める決議

2010(平成22)年11月1日から、司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて、修習資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなっている。しかしながら、滋賀弁護士会は、貸与制の実施に反対し、給費制の存続を強く求める。

司法修習制度は、司法試験合格者に対して行われる研修であり、裁判官、検察官及び弁護士(法曹)として必要とされる高度の専門的知識と職業倫理の養成を目的とする。 公務員たる裁判官及び検察官のみならず、弁護士についても、基本的人権の尊重及び社会正義の実現を使命とし(弁護士法1条)、刑事、民事及び家事等の事件処理を通じて司法制度の一翼を担い、国選弁護事件、法律援助事件、各種無料法律相談、人権擁護のための各種委員会活動、公益的事件への取り組みなど、公共性・公益性の高い活動を積極的に行っているものであり、その職務は国民の権利義務に直接関わり、公共的性格を有する。それゆえに、これまで法曹養成のために国家予算が投入され、給費制が維持されてきたのである。

また、司法修習生は兼業が禁止され、修習に専念する義務が課されるところ、給費制は、司法修習生が経済的不安を持たずに修習に専念できるための制度的担保である。

さらに、給費制は、資質と能力があれば、貧富の差を問わず法曹となれる道を保障するものであり、社会の幅広い層から有為で多様な人材を法曹として輩出することに貢献してきた。

2004(平成16)年、裁判所法が改正され、司法修習生に対しては、給費制に代えて貸与制を実施することとされた。この改正は、国の厳しい財政状況を背景として、国家公務員の身分を持たない者に対する支給は異例の取り扱いであること、司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり受益と負担の観点からは必要な経費は司法修習生が負担すべきであること等が理由として挙げられている。

この点、医師養成制度について見ると、医師は、大半が民間人ではあるものの、国民の生命と健康を守る社会的基盤であることから、2004(平成16)年の医師法改正により、新医師臨床研修制度が導入され、新卒医には2年間の臨床研修が義務付けられた。その研修期間中、研修医には病院から給与が支払われ、国から病院に対しては臨床研修費等補助金が支払われている。そのための国の予算措置は年間約160億円から171億円である。

他方、司法修習生の給費制のために必要な予算は、現状でも約100億円前後であり、医師養成との比較において、法曹養成のために要する予算が過大であるわけではない。また、医師養成のための予算措置も、大半が国家公務員の身分を持たない者に対する支給であると言え、司法修習生に対する給費制のみが異例であるとして廃止されるいわれはない。上記で述べた弁護士の職務の公共的性格に照らせば、その養成は国の責務というべきである。

裁判所法改正にあたっては、衆参両院において、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、又、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援のあり方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」との附帯決議がなされている。

しかしながら、裁判所法改正以後も、附帯決議で述べられた法曹養成制度全体の財政支援のあり方等に関する協議は十分に行われてきたとはいえない。

現在、法科大学院制度及び新司法試験制度が導入され、法曹を目指す者は、少なくとも2年間の法科大学院教育を受けた後に、新司法試験を受験することとなる。そのため、司法修習生になる以前に、法科大学院の授業料や在学中の生活費等、大きな経済的負担を強いられる。

2009(平成21)年11月に日本弁護士連合会が新63期司法修習予定者を対象に行ったアンケート結果によれば、法科大学院在学中に奨学金を利用したのは、回答者1528名中807名(52.81パーセント)に及び、そのうち具体的な金額を回答した783名の貸与を受けた額は、平均約320万円、最高で1200万円に上っているとのことである。

このような現状で給費制が廃止されれば、司法修習生の経済的負担は一層大きなものとなり、一部の経済的余裕のある者しか法曹になることができないとの事態を招来しかねない。

また、司法試験合格者数が急激に増大してきたことの影響により、弁護士を志望する司法修習生の就職状況や勤務条件は厳しく、給費制廃止により弁護士になるまでに多額の経済的負担を負うこととなった場合、弁護士となって後に心ならずも公益的活動を行う余裕がないとの事態も懸念される。

当会は、2003(平成15)年9月16日付けで、「司法修習生の給費制維持を求める声明」を、2004(平成16)年7月12日付けで、「司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明」をそれぞれ出しているほか、2009(平成21)年12月15日付けで、「司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明」を出し、貸与制実施に反対し給費制の復活を求めてきた。しかし、その後も裁判所法改正等の動きがなされないまま、貸与制の実施時期である2010(平成22)年11月1日が目前に迫っており、一刻の猶予も許されない。

よって、当会は、国会、政府及び最高裁判所に対し、司法修習生に対する給費制を存続することを強く求め、ここに決議する。

2010年(平成22年)7月30日

滋賀弁護士会

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横浜弁護士会会員殺害事件に関する会長声明

横浜弁護士会会員殺害事件に関する会長声明

本年6月2日、横浜弁護士会所属の弁護士が、白昼、弁護士事務所内において、何者かに刃物で胸部等を刺されて死亡する事件が発生した。

この事件の詳細は未だ不明な点が多いが、これまでの報道によれば、弁護士業務に関連し、その業務を妨害するために行われた可能性が高い。

仮にそうであれば、かかる行為は、凶器を用いた暴力によって弁護士業務を妨害しようとするものであり、司法制度及び法秩序に対する重大な挑戦であって、到底許されるものではない。

当会は、暴力による弁護士業務の妨害に対し、毅然と対処し、決して臆することなく、基本的人権の擁護と社会正義の実現のために全力で職務を遂行する決意であることをここに声明する。

2010年(平成22年)6月14日

滋賀弁護士会 会長 田口 勝之

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憲法改正手続法の抜本的見直しを求める会長声明

憲法改正手続法の抜本的見直しを求める会長声明

憲法改正手続法は、2007年5月18日に公布され、3年後の2010年5月18日が施行日とされている。

しかしながら、同法は、国会において十分な審議が尽くされず、多くの問題点が解消されないまま成立するに至った法律である。

すなわち、同法は、附則3条1項において、投票年齢の問題に関し、「この法律が施行されるまでの間に、年齢満18歳以上満20歳未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とし、附則11条において、公務員の政治的行為に対する制限に関し、「この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることにならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」としている。しかしながら、上記の各「必要な法制上の措置」はいまだ講じられていない。

この点、附則3条2項については、成年年齢について「前項の法制上の措置が講ぜられる」までの間は「『満十八年以上』とあるのは『満二十年以上とする』」との経過規定があるが、同11条についてはそのような経過規定がなく、大きな問題である。

したがって、その措置を講じないままに施行することは許されない。

また、同法成立の際に、参議院日本国憲法に関する調査特別委員会において、18項目にもわたる附帯決議がなされた。特に、「成年年齢」、「最低投票率」、「テレビ・ラジオの有料広告規制」の3点については、「本法施行までに必要な検討を加えること」とされている。しかし、これら附帯決議が指摘した重要な事項について何らの検討がなされない。

同法をこのまま施行することは、国会が附則及び附帯決議というかたちで自らに課した責務を果たさない結果となる。

国の基本法たる憲法の改正手続を定める憲法改正手続法については、国民主権原理に基づき、憲法改正に国民の意思が正確に反映されるよう、極めて慎重な配慮が求められる。

したがって、このような問題を抱える同法については、施行がなされるべきではなく、上記附則及び附帯決議が指摘するような問題点も含め、国民的議論が行われ、国会においても十分に審議が尽くされたうえで、真に国民の意思を反映できるよう、抜本的に見直されるべきである。

2010(平成22)年5月11日

滋賀弁護士会 会長 田口 勝之

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民法(家族法)の早期改正を求める会長声明

民法(家族法)の早期改正を求める会長声明

選択的夫婦別姓の導入、婚外子の相続分差別撤廃、女性の再婚禁止期間撤廃、男女婚姻年齢統一化を内容とする民法改正案は、1996年の法制審議会答申で指摘されているにもかかわらず、14年もの長きにわたり放置され、現在に至るも法改正が実現していない。

現行民法では、夫婦同姓(同氏)を定めている結果、婚姻する男女のいずれかが姓を変更せざるを得ず、ほとんど(96%)の場合、女性が姓を変更している。姓を変更した者の中には、改姓を望まないものの、民法上夫婦同姓とせざるを得ない結果、やむなく改姓し、社会生活上、職業上の不利益を被っている者も少なくない。なお、夫婦の同姓を強制する国は、今や先進国においては日本のみである。「選択的夫婦別姓」に対する社会的な関心度も、高まっており、2009年9月以降実施された複数の新聞社の調査では、賛成が反対を上回っている。

そもそも、氏名が「人格権の一内容を構成するものとして尊重されるべきもの」であること(最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決)に鑑みると、婚姻後も人格の象徴としての姓を継続して使用することは、憲法上の要請といえる。なお、改正案の「選択的」夫婦別姓制度は、あくまで当事者の選択を重んじるに過ぎず、夫婦同姓を望む人々に別姓を強要するものではない。個人の多様な生き方を認め合い、男女共同参画社会を実現する為にも、早急に法改正がなされるべきである。

婚外子(非嫡出子)の相続分差別(嫡出子の2分の1)は、「父母が婚姻していたか否か」という子自身の意思や努力によってはどうすることのできない事実によって、相続分について差別するものであり、最高裁判決においても、「憲法14条、24条2項との関係で相続分差別を撤廃すべきである」という趣旨の意見が繰り返し述べられている。国際人権規約自由権規約、同社会権規約、子どもの権利条約などでも、「出生によるあらゆる差別」が禁止されており、婚外子の差別の禁止は、国際的社会における規範としても、すでに確立している。

離婚した男女に関しては、女性にのみ再婚禁止期間(6か月)が設けられているが、現在では、DNA鑑定の普及により低廉な価格で簡易に高精度の父子関係の判定ができるのであるから、再婚禁止期間というかたちで、婚姻の自由を大きく制約する必要性は、すでに失われている。

婚姻年齢(現行男子18歳・女子16歳)の統一化も、憲法14条、24条2項から強く要請されるところであり、男女の年齢差を設ける現行法に、何ら合理的な理由は存在しない。

以上のような日本における家族法改正の遅れは国連においても問題視され、1993年以来、国連の各委員会は、日本政府に対し、家族法の早期改正を行うよう勧告を繰り返してきた。とりわけ、2009年女性差別撤廃委員会は、「家族法改正」を日本における最重要課題として指摘し、2年以内の書面による詳細な報告を求めるなど、再度厳しく勧告している。

国内においても、家族法改正に関する上記の議論は、これまでに十分に尽くされており、改正の機は熟したと言うべきである。

当会は、今国会において、上記の家族法改正が速やかに実現されることを強く求めるものである。

2010(平成22)年5月11日

滋賀弁護士会 会長 田口 勝之

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全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明

全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明

  1. 弁護士は、捜査及び刑事裁判においては「弁護人」として被疑者・  被告人の、少年審判においては「付添人」として少年の、法的援助を行っている。特に、弁護士付添人は、非行事実の認定や保護処分の必要性判断が適正になされるよう少年の側に立って手続きに関与するだけでなく、家庭や学校等少年を取り巻く環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動まで行っている。
  2. 少年たちの多くは、家庭で虐待を受け、あるいは学校等で疎外されるなど、家庭や社会に居場所を失い、信頼できる大人に出会えないままに非行に至っている。従って、少年審判において、そのような少年を受容・理解した上で法的援助を行い、その成長や発達を支援する弁護士付添人の役割は、少年の更生にとって極めて重要なものとなっている。
  3. しかしながら、実際に少年審判において弁護士付添人が選任されている例は少ない。2008年統計では、その選任率は、少年鑑別所で身体を拘束されて審判を受ける少年の約40%、少年審判を受ける少年全体では約8.5%に過ぎない。刑事裁判において約98.7%の被告人に弁護人が選任されていることと比較すると、心身ともに未成熟な少年に対する法的援助は極めて不十分な現状にある。
  4. このような状況が生じている原因は、2007年11月導入の国選付添人制度が、その対象事件をいわゆる「必要的弁護事件」よりもやや限定し、更に、少年鑑別所に身体を拘束された少年に対してのみ、しかも家庭裁判所の裁量によって付すことができると限定したからである。そのため、2008年統計では、国選付添人が選任されたケースはわずか約0.9%に止まっている。

    しかも、このような状況下において、2009年5月21日には、捜査段階の被疑者国選弁護制度の対象がいわゆる「必要的弁護事件」の範囲にまで拡大されたため、捜査段階においては国選弁護人が就いていたにも関わらず、家庭裁判所送致後は弁護士付添人が就かないままに少年審判に臨まねばならない少年が多数生じてしまっている。

  5. 我が国が批准する「子どもの権利条約」は、第40条2項(b)で「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童は、・・・防御の準備及び申立において弁護人(又は)その他適当な援助を行う者を持つこと」と規定し、同第37条(d)で「自由を奪われたすべての児童は、・・・弁護人(及び)その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定しており、少なくとも身体拘束を受けた少年には必ず弁護士と接触する機会が保障されなければならないとしている。

    実際、少年鑑別所に身体を拘束された少年には、生育歴や家庭環境等に大きな課題を抱えているケースが多く、また、少年院送致等の重大な処分を受ける可能性も高いことから、弁護士付添人の援助を受ける必要性は高い。

  6. しかし、多くの少年やその保護者には、弁護士付添人の費用を負担する資力がないか、仮に保護者に資力があっても少年のために費用を負担することに消極的な場合が殆どである。

    そこで、日弁連は、少年に対する法的援助を保障する観点から、全国の会員から特別会費を徴収して設置した「少年・刑事財政基金」を財源として、弁護士費用を支払えない少年に私選付添人の費用を援助する少年保護事件付添援助制度を実施してきた。しかしながら、当該援助制度は、本来ならば国の責務において整備されなければならないものであり、弁護士の会費によって支えられるべきものではない。

  7. よって、当会は国に対し、少なくとも少年鑑別所に身体拘束された少年に対しては、全面的に国選付添人制度の対象とするよう、速やかに少年法を改正することを求める。

2010年(平成22年)2月26日

滋賀弁護士会 会長 平井 建志

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司法修習生の給費制の復活を求める会長声明

司法修習生の給費制の復活を求める会長声明

2010(平成22)年11月から,司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)が廃止され,これに代えて,修習資金を貸与する制度(貸与制)が導入される予定である。

司法修習生のほとんどは,修習終了後は,裁判官,検察官,弁護士のいずれかになる。これら法曹三者は,いずれも,公益性の高い職務を担っている。このうち弁護士だけは,公務員ではないが,けっして事業収益のみを目的として活動しているわけではない。弁護士は,これまでも,当番弁護士,人権擁護活動,各種の委員会活動などの公益的活動を担ってきたし,これからも弁護士の公益的使命に変わるところはない。給費制は,こうした法曹の公益的性格に鑑み,司法修習生を資金面で支え,経済的な不安なく法曹としての基礎的な資質を身につける機会を保障してきた。

給費制の廃止は,司法制度改革審議会の意見を受け,2004(平成16)年に,裁判所法が改正された結果である。給費制廃止の主たる理由は,単に予算上の制約ということでしかない。また,改正にあたっては,「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」との附帯決議がなされている。

この法改正から5年が経過した現在,司法修習生の就職と,若い法曹の執務の環境は,当時想定されていたものとは大きく異なっている。すなわち,

  1. 法科大学院が乱立し,新司法試験の合格率が予定よりも大幅に下回っているにもかかわらず,新司法試験受験までの法科大学院の学費負担が大きく,法曹になるための経済的ハードルが高くなっていること
  2. 法曹の職域の拡大が想定ほどには進んでいないにもかかわらず,司法試験合格者が大幅に増加したことにより,司法修習生の就職先すら十分に確保できなくなっていること
  3. 年間3000人という法曹人口の創出目標も流動的となっており,今後は,修習生の給費の予算負担が軽減される可能性があることなど,法改正当時と異なる状況がある。

このような状況の下,貸与制を導入することとなれば,法曹を目指す者にとって,法科大学院と司法修習の間の研修コストがさらに増大し,経済的に余裕のない者が,法曹からいっそう遠ざけられる結果となる。また,若い法曹は,法曹生活の当初から多額の負債を抱えることとなり,その返済に追われて,公益的活動から撤退するおそれもある。

被疑者国選弁護制度の一般化,裁判員制度の実施など,法曹の公益的な活動と負担はますます増大している。経済的な不安なく修習に専念できる環境を保障することの必要性は,従前にもまして大きくなっている。 よって,当会は,国会,政府,最高裁判所に対し,2004(平成16)年の裁判所法改正を見直し,貸与制を実施することなく,給費制を復活させることを強く求めるものである。

2009年(平成21年)12月15日

滋賀弁護士会 会長 平井 建志

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改正貸金業法等の早期完全施行等を求める会長声明

改正貸金業法等の早期完全施行等を求める会長声明

2006年12月、深刻化する多重債務問題の解決のため、上限金利の引き下げ、利息制限法上限金利を超える利率での貸付の禁止、収入の3分の1を超える過剰貸付の禁止(総量規制)などを柱とした改正貸金業法等(改正出資法等含む)が成立しました。そして、同法等が完全施行される時期は2009年12月から2010年6月までとされています。

今般、貸金業界、メディア関係や国会議員の一部などから、今回の法改正により資金調達を制限された中小企業や個人の経済的破綻が増加しているなどとして、改正法に完全施行前の見直し条項(付則67条)が付されていることを根拠に、改正貸金業法等の完全施行の先送り、金利規制の見直しなどの主張がなされています。そして、政府が完全施行の是非について検討に入ったとの報道もなされているところです。

しかし、バブル経済崩壊後の長引く不況や貸金業者に対する規制の不十分さから多重債務問題が深刻化し、1998年には年間自己破産件数が10万件を超え、2003年をピークに現在は漸減傾向にあるものの、2008年も約14万件と依然高水準にあります。また、自殺者数も1998年に年間3万人を超え、現在もまったく減少する兆候がありません。自殺原因の上位に挙げられる「経済・生活問題」は多重債務問題と決して無関係ではありません。

改正貸金業法等の完全施行の先延ばしや貸金業者に対する規制の緩和は、再び多重債務問題の深刻化を招きかねず、到底許されることではありません。

政府は上記改正法等の成立後、多重債務対策本部を設置し、1.多重債務相談窓口の拡充 2.セーフティネット貸付の充実 3.ヤミ金融の撲滅 4.金融経済教育を柱とする多重債務問題対策に取り組み、当会も、多重債務相談の無料化、自治体主催の多重債務相談への弁護士の派遣、自治体との連携体制の構築等により、この問題に取り組んできました。このような官民の連携により、多重債務者数は確実に減少しており、着実にその成果を上げつつあるのであり、今求められているのは、改正貸金業法等の早期完全施行に他なりません。そして、より一層多重債務問題対策に取り組むべきです。

そこで、当会は、以下の施策を強く要望します

  1. 改正貸金業法等を早期に完全施行すること
  2. 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること
  3. 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること
  4. ヤミ金融を撲滅するための施策を徹底すること

2009年(平成21年)11月16日

滋賀弁護士会 会長 平井 建志

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淀川水系河川整備計画案に関する会長声明

淀川水系河川整備計画案に関する会長声明

  1. 改正河川法第16条の2第3項は「河川管理者は,河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは,河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない。」と定める。この規定の趣旨は学識経験者が第三者的な立場から河川整備計画の内容について専門的知見をもとに評価することにより,当該河川整備計画が定める河川工事等の必要性やその治水及び環境上の課題等が客観的に明らかにされ,地域住民などの理解に資することにある。

    淀川水系の河川管理者である国土交通省近畿地方整備局(以下「整備局」という。)は,河川整備計画案(以下「計画案」という。)を作成するにあたって,学識経験者の意見を聴取する必要性を認め,2001年2月,学識経験者で構成される淀川水系流域委員会(以下「委員会」という。)を設置した。従って整備局は河川法第16条の2第3項に基づき計画案を作成するにあたって真摯に委員会の意見を聴く法的義務を負う。

    委員会は,2001年2月の発足以来,十分な審議を行ってきた。その結果,本年4月25日,委員会は,整備局の提示した「淀川水系河川整備計画原案」に対し,特に大戸川,丹生,天ヶ瀬及び川上の4つのダムの必要性について十分説得的な説明がなされていないという理由で,同原案の見直し及び再提示を求め,その上で委員会としての最終意見を提示する旨表明していた。更に,委員会委員長から整備局に対して,委員会の最終意見提示前に計画案を策定し関係府県に提示しないよう何度も申し入れていた。

    このような状況の中で,整備局は,本年6月20日,前記4ダムの建設を盛り込んだ計画案を発表した。

    さらに整備局は,委員長をはじめとする相当数の委員が作成した計画案に反対する意見書について,委員会規約において淀川水系整備計画案の変更について意見具申することについても委員会の目的としているにもかかわらず,単に整備局からの諮問がないという理由で,委員会の意見として取り扱わないという態度を取っている。

    整備局は委員会の意見を真摯に聴いて,その意見を計画案に反映させたとは言えない。

  2. 改正河川法第16条の2第5項は「河川管理者は,河川整備計画を定めようとするときは,あらかじめ,政令で定めるところにより,関係都道府県知事又は関係市町村長の意見を聴かなければならない。」と定めている。これは,地域の意向を十分に反映するための手続きの一環として河川整備計画を作成しようとする場合に,関係都道府県知事の意見を聴くものとするという規定であり,地域の意見を反映した河川整備の計画制度の導入という河川法改正の趣旨からしても重要な規定である。

    滋賀,京都,大阪の3府県知事は,整備局の発表した計画案について大戸川ダムの建設を計画案から外すよう求めることで合意し,本年11月11日には,三重県知事も含めた共同意見として計画案に反対している。

    ダムの必要性に関して,整備局局長は本年7月8日の会見において「ダムの必要性は議論の余地がなく,国と府県で違うのは施策の優先順位だけ。」等と述べ,前記4ダム建設の方針を堅持する考えを示している。

    整備局が知事の意見を無視して,計画案通りの河川整備計画を策定する事態が予想される。

  3. 整備局が,形式的に河川法が定める意見聴取手続を行ったとして,委員会及び関係府県の知事の意見を無視して計画案通りの河川整備計画を策定することは,河川行政に専門家や地域住民の意見を反映させようとした改正河川法の趣旨に反することになる。

    以上の理由で,整備局に対し現在の河川整備計画案を撤回し,委員会及び関係府県知事の意見を十分反映させた計画案を再提示することを求める。

2008年(平成20年)11月17日

滋賀弁護士会 会長 河村憲司

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死刑執行に関する会長声明

死刑執行に関する会長声明

  1. 本年9月11日、東京拘置所において1名、大阪拘置所において2名、合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。前法務大臣の下、在任月数わずか11ヶ月の間に13名もの死刑執行がなされて、さながら大量執行の様相を呈しており、今回、さらに3名の死刑執行が行われたことについては、深い憂慮の念を禁じえない。近年、重罰化傾向のもと、死刑判決が多発し、本年9月11日現在で、死刑確定囚は102名に達しており、今後も続々と大量の執行が危惧される深刻な事態になっている。
  2. 死刑については、1989年12月の国連総会において死刑廃止条約が採択され、2007年5月には、国連拷問禁止委員会が日本の死刑制度の問題点を示して死刑の執行を速やかに停止するよう勧告し、2007年12月には、国連本会議がすべての死刑存置国に対し死刑の執行停止を求める決議を採択し、2008年5月には、国連人権理事会の審査でも日本の死刑制度には多くの問題点があり、速やかに死刑執行を停止するように勧告されている。そして、このような国際社会の努力の結果、2008年5月現在で、死刑存置国が60カ国であるのに対し、死刑廃止国は137カ国に達しており、死刑の廃止は、確実に世界の潮流になっている。それにもかかわらず、日本は、頑なに死刑制度に固執し、世界の動きに逆行して、死刑適用の拡大を推し進めている。
  3. 死刑が執行された場合、無辜の救済は不可能となり、取り返しのつかない事態を招来する。そして、現に、わが国では、過去、4つの死刑確定事件(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定し、また、昨年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害された事件(北方事件)について無罪判決が確定するなど、死刑事件についても誤判や誤った訴追が存在することは、もはや常識になっている。

    そして、このような誤判が生じるに至った制度上・運用上の問題点について、なんら抜本的な改善はなされておらず、誤った死刑判決に基づく執行の危険性は残されたままである。さらに、死刑は国家による殺人行為にほかならず、個人の尊厳という日本国憲法の根本的価値に反しているのではないか等の様々な疑問も、現に多くの国民の間で共有されているところである。

  4. このような状況下、死刑制度の持つ問題点を明らかにし、死刑に関する国民的議論を展開することはきわめて重要であり、このような国民的議論が尽くされるまでの間、死刑の執行を停止することが切に求められ、日本弁護士連合会も、この見地から、死刑執行停止法案を策定している。特に、裁判員制度が始まり、国民が死刑制度に直接関わろうとするこの時期、市民を含めた徹底した議論を展開することは不可欠であり、そのためには、死刑執行の密行主義を排し、死刑に関する情報が可能な限り国民に公開されることも不可欠である。
  5. 当会は、改めて政府に対し、死刑制度全般に関する情報をさらに広く公開することを要請するとともに、死刑の存廃について国民的議論を尽くし、死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、重ねて強く要望する。

2008年(平成20年)9月17日

滋賀弁護士会 会長 河村憲司

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少年法「改正」法案に反対する会長声明

少年法「改正」法案に反対する会長声明

  1. 本年3月7日、殺人などの一定の重大な犯罪事件について、[1]犯罪被害者等の申出により家庭裁判所が裁量で少年審判の傍聴を認めるとともに、[2]犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和しその範囲を拡げることを主な内容とする少年法「改正」法案(以下、「本法案」という。)が今国会に提出された。しかし、本法案は、以下のとおり、少年の健全育成を目的とする少年法の理念を後退させるだけでなく、犯罪被害者等が求める真実発見にも資するところは少なく却ってその悲しみや憎悪を掻き立てる結果につながる可能性が高く、当会はこれに強く反対する。
  2. まず、少年法は、少年が未成熟で成長発達の途上にあり、可塑性に富む存在であることに鑑み、教育的・福祉的見地から適正な保護処分をなすことにより、非行を行った少年の健全育成を図り、再非行を防止することを目的としている(少年法1条)。

    そして、少年審判は、非行事実の認定だけではなく、少年の家庭状況や人間関係、生育歴、環境等に深く踏み込んで、非行を犯すに至った背景・要因を少年とともに考える場とされ、そのため、少年審判は原則非公開とされ(同法22条2項)、審判は、懇切を旨として和やかに行うとともに、少年に内省を促すものとしなければならないとされている(同法22条1項)。

    しかし、少年審判に犯罪被害者等の傍聴を認めた場合、[1]少年が萎縮して、自らの心情や非行に至る経緯を率直に語ることが出来ず、内省を深めることが出来ないおそれが生じ、[2]他方、裁判官や調査官も、少年に対する教育的・福祉的見地よりも少年の社会的責任を優先した審判を志向するおそれがある。

    これでは、少年法の理念である少年の健全育成を図ることができない。

  3. 本法案は、「犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図る」ことを改正理由としている。

    もとより、犯罪被害者等の権利利益が適切に保護されなければならないことは言うまでもない。また、犯罪被害者等が、犯罪の動機や経緯、或いは加害少年についての情報につき知りたいと思う気持ちも十分に理解できる。

    しかし、これを少年審判の傍聴という形で実現することは、上記のとおり少年法の理念に反するおそれがある。

    また、少年審判は、刑事裁判とは異なり、事件発生から短期間で開かれるため、被害者等の被害感情・処罰感情や、少年の精神的動揺がいまだ大きい時期に行われることになる。更に、家庭裁判所の少年審判廷は、刑事事件の法廷とは異なり、少年の内省を深めるため極めて狭い空間でなされる。

    このような状況下において、犯罪被害者等が審判を傍聴することになると、少年の間近で犯罪被害者等が傍聴することとなり、重大事件であればあるほど、審判廷は緊迫した空気に包まれ、少年に多大の緊張・心理的圧迫をもたらす。

    その結果、少年は、率直に事実や心情を語ることが出来ず、内省を深めることも出来ない。犯罪被害者等は、そのような未だ心の整理もされていない段階での、社会的にも未成熟な少年の言葉に直接接することとなる。

    こうして、犯罪被害者等が少年の口から真実を聞くことは出来ず、却って悲しみを深め、苦しみを強め、怒りを増幅させてしまう事態になることは容易に予想されるのであり、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るという目的を達することはできない。

    他方、現行法は、少年の健全育成に資する場合、裁判所は被害者等の在廷を許可する運用がすでに行われている(少年審判規則29条)。被害者等が傍聴することが少年にプラスになると考えられる場合は、改正するまでもなく現行法で対応が可能となっているのである。

  4. 犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写の要件緩和・範囲拡大についてであるが、法律記録中の、少年の身上経歴・家族状況・生育歴などのプライバシーに関する事柄にまで閲覧・謄写の対象を拡大することは、少年や親族等のプライバシーの権利を侵害するのみならず、マスコミやインターネットを通じて、これらの情報が流出する危険も否定できない。

    そして、外部には漏れないという保証がない以上、プライバシー保護のため、少年及び周囲の関係者は、裁判所に対してすら、安心して情報提供や事情聴取に協力できなくなり、ひいては裁判所が、適正な処分を判断するに必要な資料を収集することが困難となるおそれが生じる。

    現行法上、犯罪被害者等の記録の閲覧・謄写は機能しており、その範囲を拡大する必要性は乏しい。

  5. 犯罪被害者等の保護・支援は重要な課題である。しかし、以上のとおり、犯罪被害者等に少年審判の傍聴を認め、記録の閲覧・謄写の要件を緩和し、その範囲を拡大することの弊害は大きく、他方、犯罪被害者等の権利利益の保護につながらない可能性が高い。

    犯罪被害者等の保護・支援は、各関係機関が、犯罪被害者等の意見聴取や通知制度などの現行制度をより丁寧に運用し十分に活用すること、その上で、国が犯罪被害者等に対して精神的・経済的支援体制の一層の充実を図ることで対応すべきなのである。

以上のとおりの理由で、当会は、被害者等に少年審判の傍聴を認めること、記録の閲覧・謄写の要件を緩和し、その範囲を拡大することを認める本法案に反対するものである。

2008年(平成20年)5月14日

滋賀弁護士会 会長 河村憲司

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非司法競売手続の導入に反対する会長声明

非司法競売手続の導入に反対する会長声明

現在法務省において、裁判所が関与しない民間オークションで競売手続を行う「非司法競売手続」の導入が検討され、省内の競売制度研究会では、意見の最終とりまとめに入っているという。

当会は「非司法競売手続」は導入の必要がなく、またその手続には重大な問題点が存するため、これに反対する。

まず、現行の不動産競売手続は、迅速的確な競売の進行をはかり、競売妨害を排除するため、法改正や運用改善が行われた結果、不動産競売事件の約4分の3が半年以内に売却実施処分に付され、売却率も全国平均で80パーセントを超え、大阪地裁、東京地裁では100パーセントに近い実情にある。このように、現行競売制度には大きな問題はなく、それを大きく変更しなければならない理由は存在しない。

検討されている「非司法競売手続」には、いくつかの案があるものの、案には、裁判所の関与が無く、現況調査報告書・評価書・物件明細書のいわゆる三点セットを作成せず、売却価格の下限制限を設けないというもの、これらのいくつかを取り入れるものがある。

裁判所による手続であって、三点セットが作成され、売却価格に下限が設けられていることは、現行の競売制度の重要な骨格であり、これらをなくすことで、競売の各方面の関係者に大きな危険と損害を及ぼすおそれがある。

三点セットがなければ、買い受け人は、物件についての重要で基本的な情報が得られず多大な買い受けリスクを負うことになり、リスク負担能力や調査能力のない一般市民が競売に参加することは極めて困難となる。

売却価格の下限制限がなければ、物件が不当に低価格で売却される可能性が高くなる。担保物件の売却後は債務者や保証人に残債務を請求しないノンリコースローンが普及しているアメリカと事情を異にする日本では、それにより、債務者、保証人の利益を害するとともに、低価格売却は物件所有者の利益を害する。仮に「非司法競売手続」によるには、融資時の債務者、所有者の同意を要件とするとしても、融資時の力関係を考えるならば、とうてい歯止めとはならない。

そして、そもそも、手続に裁判所の関与がない「非司法競売手続」の場は、手続の適正が確保されにくいおそれがあり、反社会的勢力による不当な利益獲得の場となる可能性が高い。

よって当会は、「非司法競売手続」の導入に強く反対するものである。

2008年(平成20年)3月11日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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死刑執行に関する会長声明

死刑執行に関する会長声明

  1. 本年2月1日、東京拘置所、大阪拘置所及び福岡拘置所において各1名、合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行され、死刑執行は、平成18年12月から数えただけでも、合計16名に達した。
  2. 死刑については、生命の尊厳の観点から、また、死刑の犯罪抑止効果についての研究などを踏まえ、その存廃が議論されてきたが、現代の国際社会においては、死刑廃止が潮流となっている。

    1989年、国連総会において国際人権 (自由権)規約第二選択議定書、いわゆる「死刑廃止条約」が採択された。1997年以降毎年国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)が行った「死刑廃止に関する決議」には、死刑存置国に対し、「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」との内容が盛り込まれている。

    このような中で、死刑を法律で廃止し、あるいは10年以上執行していない事実上の廃止国は着実に増加してきた。

    そして、2007年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して、死刑執行の停止を求める決議が採択された。

  3. 死刑問題についての日本の現状は、国際社会の批判を呼び起こしている。

    2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・報告においては、わが国の死刑制度の問題点を端的に指摘した上で、死刑の執行を速やかに停止するべきことが勧告された。

    上記2007年12月18日の国連総会本会議決議の採択に先立ち、折しもその直前の時期に行われた日本の死刑執行に対して国連人権高等弁務官から強い遺憾の意が表明されるに至った。

  4. わが国において、4件の死刑確定者に対し再審無罪が言い渡された事実は、死刑確定判決についてすら誤判の危険性があることを証明している。わが国刑事訴訟における自白偏重の傾向、長期の身柄拘束、捜査機関による取調べの場での日常的な自白強要の横行など、誤判が生ずる構造的危険性はこれら4冤罪の発生当時から未だに解消されていない。すなわち、誤った裁判により死刑の執行がなされる危険性は払拭できないものである。
  5. 当会は、国際社会の要請に背をむけるかのように、死刑執行を増加させる政府の態度に強い遺憾の意を表明する。

    国際社会が死刑廃止に向けて進んでいる中、日本においては、死刑制度の存廃について国民の議論も未だ十分に行われていない。

    当会は、政府に対し、死刑制度全般に対する情報を広く国民に開示して国民の議論に資する正確な情報を提供するとともに、死刑制度に対する国民的議論が充分に尽くされるまで死刑の執行を事実上停止することを求める。

2008年(平成20年)2月13日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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生活保護基準の安易かつ拙速な引き下げに反対する声明

生活保護基準の安易かつ拙速な引き下げに反対する声明

  1. 厚生労働省は、社会・援護局長の私的研究会として「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)を設置した。本年10月2日の首相答弁では「厚生労働省において・・・生活扶助基準見直しを検討しているところであるが、・・・有識者会議の設置を含め、今後の具体的な進め方については、現時点では未定である。」とされていたが、突然に本年10月16日に検討会の設置が発表され、同日に3日後である10月19日に第1回会合を行うことも発表された。そして、本年10月19日の第1回検討会に続き、同月30日に第2回検討会(その開催の発表は同月25日)、11月8日に第3回検討会(その開催の発表は11月5日)と、矢継ぎ早に検討会が開催されている。

    検討会の議事次第や配付資料によれば、検討会は、平成18年7月の閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」の定めた見直しについて専門的な分析・検討を行うとされている。この閣議決定は、行政のスリム化、効率化を主眼にするもので、生活扶助基準については、「低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し」及び「級地の見直し」を行うこととし、見直した内容を「可能な限り2007年度に、間に合わないものについても2008年度には確実に実施する」とする。そして、検討会は、「生活扶助基準は、一般国民の生活水準との関連においてとらえられるべき相対的なもの。具体的には、年間収入階級第1/10分位(収入別10階級の最下位)の世帯の消費水準に着目することが適当」という方向を持って検討を行っている。

    これらの点からは、検討会が、非常に早い時期に、生活保護基準の引き下げを内容とする検討結果をまとめる事が強く懸念される。報道においても(北海道新聞本年10月18日朝刊など)、検討会は年内に報告書をまとめ、生活保護の基本となる最低生活費の基準額の引き下げを提言する見通しで、級地制度の見直しと相まって、都市部では、大幅な基準引き下げが懸念され、例えば高齢者の単身世帯等では1割を超す削減幅となるなどとされている。

  2. 今、わが国の現状は、貧困や格差が急速に拡大し、失業や不安定就労・低賃金労働の増大などによって生活困窮に陥り、生活費補填などのために多重債務に陥った人々は少なくとも200万人以上とされている。また、仕事、家族、住まい等を次々と喪失し、これが世代を超えて拡大再生産されるという「貧困の連鎖」が生じる中、社会から排除された人々の餓死事件や経済的理由による自殺が相次いでいる。このような中、平成18年6月には自殺対策基本法が成立し、平成18年12月閣議決定をもって内閣に多重債務者対策本部が設けられるまでになっている。このような中で、生活保護制度には、社会保障のセーフティネットとしての機能を正しく発揮することが一層求められるはずである。ところが、現実には、生活保護の申請窓口においては、申請しても通るはずがないなどと「説明」「説得」して、申請書さえ渡さず申請を受け付けず違法に生活保護受給権を侵害する運用が横行している。そして、生活保護受給要件を満たしながら受給に至っていない者が多数存在する、すなわち捕捉率が低い。これらの状況は改められず、今なお、生活保護を求めながら餓死に追いやられる事例が発生し続けている。

    いま、生活保護制度や保護費の基準を検討するのであれば、次のような視点が必要と考える。まず、人権の視点である。生活保護制度は憲法25条に基づく制度であり、これを具体化する生活保護基準については、真の意味で「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するものか、人権保障の基本に立ち帰って真摯に検討されなければならない。次に、社会や、生活保護の現状を踏まえた検討であるべきことである。ところが、検討会の検討姿勢は、人権の視点、貧困層の拡大是正の視点が欠落し、支出削減のための保護基準の切り下げという結論を先取りした拙速なものと言わざるをえない。

    また、生活保護基準は医療、福祉、教育、税制などの様々な施策と連動している。すなわち、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料及び障害者自立支援法の利用料の減免、地方税の非課税基準額、公立学校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準等に連動し、また、一部自治体はこれを国民健康保険料の減免基準と連動させている。従って、生活保護基準のいかんは、低所得者層の生活全般に波及する問題である。また、生活保護制度のあり方や基準は、上述した多重債務者対策、自死対策などとの連携も検討しながら、社会保障政策全般についての広い視野に基づき検討されなければならないはずである。このような観点からは、生活保護基準の見直しは、低所得者の生活実態とともに市民全般の生活実態、現代の文化生活水準そのほかを総合的に十分に調査・分析して、生活保護利用者や一般市民の声を十分に聞いた上で慎重に進められるべき問題であると考える。

    検討会が、その開催を市民に周知する期間もなく、また、生活保護利用者や一般市民の意見聴取の機会も置かないまま会合を重ね、早期に結論をまとめようとしていることは、上記に指摘した慎重な検討の必要性という観点から到底看過できない。

  3. 2006年の日本弁護士会連合会人権擁護大会では、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択した。この決議は、生活保護基準の切り下げを止め、基礎年金額の引き上げや生活保護法の積極的適用などにより社会保障の充実を進めることを国や地方自治体に求めることを一内容とする。

    当会もこの決議を支持するものであり、また、当会内においても、生活困窮者支援のための活動に関与する会員が増えている状況にある。

    このような立場から当会は生活保護基準の切り下げに反対する。特に、捕捉率が低い中で、現実の低所得者の生活実態に合わせて基準を切り下げることは検討手法として問題であること、現に老齢加算廃止、母子加算削減が既に経済的弱者の生活を著しく脅かしていることを指摘する。

よって当会は、厚生労働省及び「検討会」に対し、生活保護基準の検討について、社会実態に即した慎重な検討を行うことを求め、生活保護基準の安易で拙速な切り下げに反対する意見を表明する。

2007年(平成19年)11月13日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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国民生活センターの機能充実を求める意見書

国民生活センターの機能充実を求める意見書

去る2007(平成19)年9月27日,内閣府は,「国民生活センターの在り方等に関する検討会」の最終報告書(以下「報告書」という。)を発表した。

国民生活センターは,全国の消費生活センター,消費生活相談窓口のナショナルセンターとして,消費者問題に関する情報の集約,法解釈や判例研究の中心的役割を担っている。近時,悪質商法被害が増加している中で,国民生活センターに期待される役割はさらに重要性を増している。

しかるに,報告書は,ADRの導入など部分的には評価できる部分も含まれるものの,全体としては,独立行政法人の整理合理化計画のもとで,国民生活センターの機能を縮小していくことを主眼としている。現時点においてさえ,国民生活センターが限られた予算や人員の中で,その役割を十分に果たすことが困難であるのに,国民生活センターの機能をさらに縮小することには,強い懸念を抱かざるを得ない。

そこで,当会は,この報告書に対して,以下のとおり意見を表明する。

第1 意見の趣旨

独立行政法人国民生活センターは,消費者の正当な権利の確立のためになくてはならない重要な機構であるが,その重要性にみあった十分な体制を有しているとは言えず,一層の機能充実が求められる。当会は,内閣府が公表した「国民生活センターの在り方等に関する検討会」の最終報告書のしめす国民生活センターの機能縮小には反対であり,国民生活センターについて,さしあたり,次の機能強化策を講じるとともに,センターの一層の機能確保,充実の方向での検討を行うべきであると考える。

  1. 全国消費生活相談情報ネットワークシステム(PIO-NET)の機能の充実と,製品事故事案,悪質業者事案の公表の権限と手続を法律上明確化すること。
  2. 消費者紛争に関して,国民生活センターにADR機能を付与すること。
  3. 商品テストの機能を強化すること。
  4. 全国の消費生活相談員及び消費者行政職員に対する研修事業を大幅に拡充すること。
  5. 苦情相談機能を,地方消費生活センターからの問い合わせに対応する「経由相談」にとどまらず,消費者からの直接相談を受け付けるものとし,そのための人的体制を整えること。
第2 理由
  1. PIO-NETの機能充実と事案公表手続の法定について

    PIO-NETは,全国の消費生活相談窓口に寄せられた相談情報を一元管理し,分析できる重要なツールである。消費者訴訟においても,その情報はしばしば活用され,適正な解決に資するものとなっている。ところが,PIO-NETについて情報集約の法的根拠や苦情等情報の公表の法的根拠について明確な定めがない。

    製品事故の多発や,悪質事業者による苦情の多発は,PIO-NETをみれば,一目瞭然である。にもかかわらず,この情報を活用した,事案の公表,事業者名の公開等は,なかなか行われにくいのが現状である。公表権限について明示的法的根拠を持たない現状では,事業者が国民生活センターによる公表処分を不当であるとして争った場合,センターは,直ちに,損害賠償請求訴訟等の矢面に立たされることにもなりかねないことが大きな要因である。

    しかし,事案の公表が遅れることは,同種被害の拡大を放置することにほかならない。早急に,事案公表,業者名公表の手続を法定し,センターが,情報の公開をもって同種被害の拡大防止にその力を発揮できるよう,制度を整備する必要がある。

  2. ADR機能について

    消費者被害事件の解決は,高度に専門的な知見を要し,低廉な費用で迅速な解決を必要とするものである。こうした事案は,裁判制度外のADRによる解決になじむものであり,公正中立かつ専門的知識と情報を有する国民生活センターが,これを担うことが期待される。

    消費者基本法25条は,国民生活センターの役割の一つとして,「苦情の処理のあっせん」を定めている。従来実施している紛争あっせんに加えて,より実効性の高いADR制度を導入することが必要である。

  3. 商品テストについて

    最近の食品をめぐる不当表示事件からも明らかなように,また,商品の欠陥等による事故が相変わらず多く発生していることからもわかるように,商品テストは,消費者保護行政の重要な機能の一つである。商品テストは,その性質上公平性,中立性がつよく求められるのであり,事業者や事業者団体に依存せずに独立した立場でテストを行うことが必要である。ところが,地方自治体の商品テストの予算は削減傾向にあり,国民生活センターの商品テストは,さらに重要性を増している。

    それにもかかわらず,今回の報告書では,商品テストを外部委託に切り替える案が提示されている。外部委託においては事業者や事業者団体に依存することになり,公平・中立性の要請に反するものとなる。

  4. 研修事業について

    消費者被害案件の解決には,高度の専門知識が不可欠である。ところが,現場の相談員の研修ははなはだ不十分で,多くは,相談員の自主的な研さんの努力にゆだねられているのが実情である。

    現在,現場の相談員は,必ずしも十分な回数が保障されているとはいえないにしても,国民生活センターが実施する研修会に参加して,多くの知識やノウハウを会得し,日々の業務に生かしている。現場の相談員の研修の要望に応えることができるのは,国民生活センターが,日常的に多くの知見を集約し,これを活用しているからである。国民生活センター以外に,適当な研修実施機関があるとは思われず,研修事業を外部委託すると,研修の質の低下が危惧されるところである。

    国民生活センターの研修は,回数と内容をより充実させ,全国の相談員に十分な研修の機会を提供できるよう拡充されなければならない。

  5. 直接相談の実施について

    報告書は,相談業務は自治体が取り扱い,センターは,直接相談から撤退することを提案している。しかし,消費者被害は,被害者自身から具体的な被害実態の聞き取り調査を行って初めて適切に把握できるものである。消費者ひとりひとりからの,ていねいな聞き取りを積み重ねる中で,はじめて,消費者被害の実態や繰り返される手口,被害に遭う人の心理状態などの把握が可能になるからである。

    国民生活センターが,消費者の直接相談を受け付けなくなれば,次第に,消費者被害を理解できない組織に変質してしまうであろう。直接相談の実施は,センターの根幹に関わる問題であって,決して,自治体との分業が可能なものではない。直接相談の廃止には反対である。

第3 結び

福田首相は,所信表明演説の中で,消費者保護のための行政機能の強化に取り組むと述べた。また,現在,多方面で,消費者庁の設置を望む意見も強くなっている。今回の報告書は,こうした流れに逆行するものである。

消費者の正当な利益の保障のためには,国民生活センターの機能,権限を強化することこそが必要である。

2007(平成19)年11月19日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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『少年警察活動規則の一部を改正する規則』案における「ぐ犯調査」権限の新設に反対する会長声明

『少年警察活動規則の一部を改正する規則』案における「ぐ犯調査」権限の新設に反対する会長声明

2007年9月、警察庁は、『少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)の一部を改正する規則』案(以下、「規則案」という。)を公表した。

規則案にはいくつかの問題があるが、とりわけ、規則案第三章第三節に、警察の「ぐ犯調査」権限の規定を新設したことは、問題である。

  1. 規則案が新設した「ぐ犯調査」に関する規定では、「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者、保護者又は参考人」を呼び出し、質問することができるとされ、調査は、「当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の環境、交友関係等」を含め、「詳細に」行われなければならないとされた(30条が準用する20条1項、16条)

    ここに「ぐ犯少年」とは、「性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」(少年法3条1項3号)をいい、本来範囲の曖昧な概念である。さらに、「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者」にまで警察の調査対象とするなら、その範囲は無限定に拡大してしまうおそれが大きい。しかも、調査の対象が「保護者又は参考人」にまで広げられ、「家庭の環境、交友関係等」が「詳細に」調査されるならば、国民の生活がすべて警察の監視下におかれることになりかねず、人権侵害を招く危険が大きい。

  2. 本年5月25日に可決成立した「改正」少年法の国会審議において、政府提出法案に置かれていた「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官等の調査権限の規定は削除された。ここで、国会の取った立場は、「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官等の調査権限を否定したものである。

    規則案の設けようとしている規定は、すでにこれと相反する判断を下した国会の決定に反して、警察の「ぐ犯調査」権限を国家公安委員会規則の形式で復活させることにほかならず、憲法が国民の代表者で構成する国会を唯一の立法機関と定めた(憲法41条)趣旨に反し、ひいては、各国家機関を憲法と法律で拘束することにより、国家機関による人権侵害を防ごうとする立憲民主主義の精神に背くことになる。

よって、当会は、規則案第三章第三節の「ぐ犯調査」の新設について、警察への「ぐ犯調査」権限の付与には人権侵害のおそれが強く、また規則で「ぐ犯調査」権限を付与することは、国会審議に反して民主主義を否定すると考え、強く反対する。

2007(平成19)年10月10日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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滋賀刑務所における受刑者死亡についての会長声明

滋賀刑務所における受刑者死亡についての会長声明

2007年9月18日,滋賀刑務所は,同月16日に56歳の男性受刑者が急性腹膜炎で死亡したと発表した。

現段階で、刑務所が公開している情報によれば、受刑者は、9月16日午前2時10分ころから腹痛を訴え、看守が2度薬を与えたが、医師の診察は受けさせていなかった。同日午後10時前、看守が巡回した際、受刑者がベッドにぐったりしているのに気づき、救急車で病院に運んだが間もなく死亡が確認された、という。そして本件発表の際、滋賀刑務所総務部長は「休日に急病人が出たときは当直責任者に連絡しなければならないが、現場の判断で薬を与えてしまった。」と述べたとのことである。

当会は、本件事態を隠蔽することなく自ら公表した滋賀刑務所の態度は評価するが、本件事態が発生したことについて、次の見解を表明する。

被収容者の健康の保持とその疾病の治療は、拘禁を行う国の責務である。しかるに、現在の刑事施設における医療は、被収容者の数やその健康状態に見合った医師と医療スタッフを確保しておらず、また必要があれば被収容者を外部の医療機関へただちに移送できる体制が整備されていない。しかも、過剰収容のため、刑事施設における医療体制不足の問題は、一層深刻化していると考えられ、一刻も早い改善が必要である。

さらに、今回発生した事態については、看守が受刑者の腹痛の訴えに接してから医療機関につなぐまでに、約20時間も経過しており、また、「休日に急病人が出たときは当直責任者に連絡する」ルールが遵守されなかったことなど、本件受刑者に対する処置に問題がなかったかについて疑義があり、十分な調査が必要と考えられる。

当会は、滋賀刑務所及び法務省が、今回の死亡事例の原因を至急調査し、その結果を全国の刑事施設での再発防止に活かすように求めるとともに、法務省が、受刑者がいつでも適切な医療を受けられるような体制の整備と、それを可能とする予算措置を講じるなど、対策への一歩を進めることを求めるものである。

2007(平成19)年10月10日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

刑事弁護人への脅迫行為に対する会長声明

刑事弁護人への脅迫行為に対する会長声明

  1. 広島高等裁判所で、最高裁から差し戻された殺人等被告事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)が係属、審理中である。本年5月29日、この事件の弁護団を脅迫する書面等が日本弁護士連合会に送付された。続いて本年7月には、複数の新聞社に、日本弁護士連合会に送付されたと同様の脅迫文が送付されたと報道されている。

    これらは、弁護活動そのものに対する違法な攻撃であり、弁護活動を阻害し、否定しようとするものであり、当会はこれに厳重な抗議の意を表明する。

  2. 現代の刑事司法制度は、誤って、無辜の者を処罰することを防ぐための、人類の英知の一到達点である。訴追権者が「犯人」と認めた者に対し、防禦の機会を保障し、証拠に基づいた判断を受ける場を確保する、このシステムこそが裁判である。今、わが国の刑事裁判は、訴追権を行使する立場の検察官と被告人が対等当事者として、適正手続の保障を受ける中で、攻撃防禦を尽くすことにより、真実を発見する、当事者主義の構造をとっている。被告人は自らの力のみでは防禦権を十分に行使できないことから、弁護人の十分な援助を受ける権利が確保されて初めて防禦権は実質的に保障される。すなわち、最大の人権侵害である、誤った刑罰権の行使を防ぐシステムの要の一つが、弁護人選任権(憲法第37条3項)である。また、この権利の実質化には、弁護活動の自由の保障がかかせない。これが掘り崩されることは、法治国家、人権保障の根幹が侵されることである。

  3. 弁護士は社会正義の実現をめざし、犯罪を憎む。被害者の心情に共感すること、犯罪被害者の権利擁護に努めること、その重要性は言うを待たないし、弁護士はこのことを深く認識してもいる。

    しかし、そのことと、適正な刑事裁判の維持の必要性とは、別のことがらであり、いずれもないがしろにすることはできない。

    弁護士は、弁護人としては、適正手続を保障し、被疑者・被告人の防禦を尽くすため、全力で主張立証を尽くす使命を課せられている。その主張立証により、仮に、結果として被害者の心情を害するとしても、それが、防禦に必要であれば、敢然として職責を全うすることが弁護人には求められる。そして、被告人・被疑者の権利を守るため、弁護人の任務遂行は、保障され、脅威から守られなければならない(国際連合「弁護士の役割に関する基本原則」第16条)。

かような観点から、当会は、本声明をもって、

(1)本件「光市母子殺害事件」弁護人への脅迫行為に対して厳重に抗議する。

(2)弁護活動とその自由の確保は、訴追を受ける可能性のある全ての市民が、適正な手続による裁判を受け人権侵害から守られるために十分に保障されなければならない。この点について、市民の皆さんの理解を求める。

(3)そして、卑劣な攻撃に屈することなく職責を全うできるよう、弁護人を支援してゆく決意を表明する。

2007(平成19)年8月20日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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取調べの全過程の可視化(録画・録音)を求める会長声明

取調べの全過程の可視化(録画・録音)を求める会長声明

わが国における取り調べは、密室で行われている。刑事裁判の実態が、自白偏重を脱していないこともあり、取調べにおいては、捜査機関にとって自白の獲得が至上命令となり、自白の獲得のために、長時間に及ぶ過酷な追及が行われがちである。

その結果、日本国憲法及び刑事訴訟法の定める、被疑者・被告人の黙秘権保障や自白の強要禁止の規定は有名無実化され、暴行、脅迫、侮辱、威嚇、詐術、人格攻撃などによる人権侵害が行われ、これらによって獲得された虚偽の自白が、冤罪や誤判のもととなってきた。

死刑確定後再審無罪となった免田事件、財田川事件、島田事件、松山事件などを始めとして、冤罪の例は枚挙にいとまが無い。

近時も、2000(平成12)年3月に、松山地裁宇和島支部において、密室の取調べで虚偽自白に追いやられて起訴され、窃盗、有印私文書偽造・同行使、詐欺被告事件の審理を受けていた男性が、1年以上勾留され裁判を受けている間に、偶然真犯人が見つかり、判決を控えた時期に釈放され、無罪となる事件が発生した。 本年1月には、富山県において、強姦、強姦未遂事件において虚偽の自白を強いられた結果有罪判決を受けた者が約2年服役した後に、偶然、真犯人が発見されたために、無実であったことが判明した。

本年2月には、鹿児島地方裁判所は、公職選挙法違反被告事件について被告人12名全員に無罪判決を下し、判決は確定した(志布志事件)。この事件においては、被告人12名中6名までが虚偽自白に追いやられた。この事件は、捜査機関の描いたシナリオに従い、ありもしない買収会合を、複数の者が虚偽自白させられたという、密室での取調べの行き着くところをあますところなく示す事件であった。

本年3月、福岡高等裁判所は、一審の佐賀地方裁判所に続き、佐賀3女性連続殺人事件の被告人を無罪と判断した。この事件でも被告人は別事件での身柄拘束中に「任意取調べ」として調べられ、虚偽自白の上申書を書かされている。

これらのケースは、「やっていなければ自白するわけがない」という議論がいかに現実を反映しないものかを、如実に示した。

違法、不当な取調べと、虚偽の自白による冤罪を防ぐためには、長期間代用監獄で警察のもとに身柄を拘束される実態を改革し、伝聞法則を徹底させる方向で自白調書の証拠能力を再検討することが必要であり、そして、取調べを可視化することが必要である。

取り調べ過程が記録され外部者の監視できるところとなることは、密室での違法な取調べを抑制するための最も優れた手段である。

従来、自白調書の任意性、信用性が争われると、調書作成者である警察官に対する取調べ状況についての尋問等に膨大な時間が費やされ、それでも、必ずしも取調内容や被疑者の供述過程が明らかにならない問題があった。録音、録画さえあればそのような不毛な証拠調は不要とできる。

また裁判員裁判においては、市民にわかりやすい審理やできるだけ明瞭な証拠提出を心がけ、裁判員に過大な負担をかけないことが求められている。上記のような自白調書の任意性、信用性についての証拠調べは裁判員裁判に適合しないことは明らかである。

諸外国では、既に多くの国で可視化が実施されている。そして、現代の録画、録音技術をもってすれば、可視化は技術的、コスト的にも容易なことである。

最高検察庁は、2006(平成18)年、取り調べの録画・録音の試験的実施を行うと発表し、一部で試行している。しかし、最高検察庁の方針は、検察官による調べについてのみ録画・録音を行うもので、対象事件、録画・録音する範囲も検察官の裁量にゆだねられるものである。それでは、録画・録音する範囲に警察官の取調べが含まれない点、検察官調べの一部を恣意的に録画・録音して、作為的に、任意性を印象付ける材料とするのを排除できない点で問題があり、到底、可視化の趣旨を満たすものとはいえない。

よって、当会は、取り調べの全過程の可視化を求める意見を表明する。

そして

  1. 国に対し、裁判員制度の実施を目前に控え、速やかに、被疑者調べの全過程を録画・録音し、これを欠くときは、証拠能力を否定する法律を整備することを求めるとともに、
  2. 検事総長、警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、各捜査機 関の捜査実務において、被疑者または弁護人が求めたときは、即時に被疑者調べ 全過程の録画・録音を実施すること

を求める。

2007(平成19)年6月11日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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日本国憲法の改正手続に関する法律案に反対する会長声明

日本国憲法の改正手続に関する法律案に反対する会長声明

現在開催されている第166回国会において、与党である自民党・公明党が「日本国憲法の改正手続に関する法律案」を、民主党が「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」を、衆議院に提出し、審議中である。

当会は、2006(平成18)年1月30日、「憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する会長声明」を発し、当時の、自民、公明、民主3党がまとめた憲法改正手続に関する法律の案に関して、憲法改正の国民投票という最大の重要問題であるにもかかわらず、十分な国民的議論を尽くすための環境の整備を図るどころか、逆に、議論を制限するような条項が多く含まれていることを指摘し、人権擁護を使命とする弁護士会としての強い懸念を表明した。

日本弁護士連合会、また各単位弁護士会からも、多数の反対声明、問題点の指摘がなされてきた。

しかし、今、現に審議中の上記各法案は、基本的には、当時の枠組みのままの法案であり、次のような問題点がある。

  1. 発議から投票までの期間が60日以後180日以内とされており、憲法改正という重要問題についての議論の期間としてあまりに短すぎる。

  2. 複数の条項についての改正案が発議される場合には、それぞれの条項について個別に賛否を投票できる方式でなければ、国民の意思を正確・適切に反映させることはできない。ところが、両法案においては、憲法改正原案の発議を、「内容において関連する事項ごとに区分」して行うものとされている。国会の多数派が、「内容において関連する」とした事項については一括して投票することになり、国民の意思の正確・適切な反映の観点から問題である。

  3. 与党案では有効投票総数の2分の1を越えた場合、民主党案では投票総数の2分の1を越えた場合、国民投票で承認と扱われる。しかも、最低投票率の定めは無く、憲法改正の要件として有権者の一定割合以上の賛成があることを要求する規定もない。そのため、投票率が低ければ、国民の少数の賛成で、憲法改正が行われ、国民意思と乖離した結論になってしまう。与党案によれば、有効投票率が低ければ、一層その傾向が顕著に表れる。

  4. 憲法改正国民投票に向けての広報のしくみが、国会多数派に有利に帰する内容になっており、憲法改正という重要事項に関して、公平に情報を流通させて、国民の議論に十分な素材を提供するという要請に十分応えるものになっていない。

    憲法改正国民投票に向けての広報機関として設けられる「広報協議会」の委員の員数は、国会会派の所属議員数の比率が基本とされる。

    また、政党等が憲法改正案に対する意見を無料でテレビ、ラジオで放送し、新聞広告できる制度が設けられるが、その放送時間、広告寸法は、所属国会議員数が基本とされるからである。

  5. 憲法改正という、国の根本に関わる重要問題については、とりわけ、自由かつ公正な討論や意見表明の機会が保障されなければならない。

    ところが、公務員、教育者の地位利用による国民投票運動を禁じ、国民投票に対しての組織的多数人買収及び利益誘導罪を定める(与党案)、職権濫用による国民投票の自由妨害罪を設ける(民主党案)など、各法案では、表現の自由に対する萎縮的効果の大きい、過度の規制がなされている。

    国民投票の7日前(日数をより長くする変更案あり)からは、上記無料放送以外のテレビラジオでの意見広告放送が禁じられる。

    これらは、表現の自由に対する制約として、過度のものである。

  6. 国民投票無効訴訟は国民投票の結果の告示から30日以内に提起しなければならず、管轄は東京高等裁判所のみとされ、要件として極端に制約的にすぎて妥当でない。

憲法改正国民投票に関する手続においては、表現の自由が十分保障されることが要求され、また、国民主権の観点からは、国民の意思が十分忠実に反映できる手続であることが必要であるが、上記に指摘したように、上記各法案は、これらの要請に反している。

よって、当会は、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(与党案)にも、「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(民主党案)にも、反対の意見を表明する。

2007(平成19)年4月10日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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被害者の刑事手続参加制度の新設に反対する会長声明

被害者の刑事手続参加制度の新設に反対する会長声明

本年3月13日、「被害者参加制度」の新設を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に上程された。

新設されようとしている「被害者参加制度」は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族(以下「犯罪被害者等」という。)に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、自ら被告人に対して行う質問、証拠調べ終了後の弁論としての意見陳述(求刑を含む、事実と法令の適用に関する意見陳述)を認める制度である。

確かに、これまで、犯罪被害者等に対する保護・支援は、経済的補償の面でも、また医療・精神的ケアの面でも、十分ではなかった。犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入、その他、早急な手当が必要である。

しかしながら、「被害者参加制度」には、次のような刑事司法の根幹に関わる様々な問題点があり、被害者保護のためにも必ずしも適していると考えられない面があるなど、現時点で、被害者保護・支援策の一環として導入することには、反対せざるをえない。

第1に、法廷が復讐の場と化する危険があり、被告人の防御権を実質的に侵害することである。

近代刑法は、刑罰権国家独占の原則をとっている。私的復讐が禁じられ加害者が国家により処罰されることで、被害者が加害者からの復讐から守られ、そして報復の連鎖を防ぐ仕組みである。そしてわが国の刑事裁判は、刑罰権を行使する立場の検察官と被告人・弁護人が対等当事者として、適正手続の保障を受ける中で、攻撃防御を尽くすことにより、真実を発見する、当事者主義の構造をとっている。

ところが、犯罪被害者等を法廷で、生の声で被告人に対峙させると、法廷が犯罪被害者等からの復讐の場と化し、また、被告人から犯罪被害者等への反発、逆恨みの感情を生む可能性すら生じる。国家が刑罰権を独占した趣旨に反して、報復の連鎖が復活する恐れがある。そのような事態は、犯罪被害者等にとっても望ましくない。

結果が重大な事案においては、現行の手続においても、被告人が結果の重大性に打ちひしがれて、言いたいことをいえない心理になりがちである。犯罪被害者等が参加人として加わっている手続では、一層、被告人は、沈黙せざるを得ない。

しかし、特に、正当防衛の成否、被害者の落ち度、過失の存否、殺意の有無など、重大な争点については、それらの争点について、被告人、弁護人が、十分に犯罪の成否、情状に関わる被告人に有利な主張を展開でき、それを立証するための詳細な供述を行える条件が確保されることが、公正な裁判のために不可欠である。「被害者参加制度」は、そのような主張や供述を甚だしく困難にすることにより、被告人の防御権を実質的に侵害し、適正手続による真実発見を歪める危険がある。

第2に、犯罪被害者等は、被告人が加害者であるという前提で、被告人質問や論告求刑などの訴訟活動を行うことになるが、事実認定と量刑が分離されていない手続のもとで、無罪推定原則に抵触する可能性がある。

第3に、犯罪被害者等の意見や質問が過度に重視され、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑と離れた方向に裁判が誘引されることが懸念される。犯罪被害者等は、十分に証拠を把握している立場になく、検察官と異なって証拠に基づく訴訟活動をすることを要求することそのものに無理がある。また、犯罪被害者等に、同種被告事件との均衡等を考慮した求刑を要求することにも無理がある。

特に、裁判員制度には、大きな影響が及ぶ可能性が高い。法の専門家でない裁判員にあっては、犯罪被害者等の感情に接して、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑が難しくなる恐れは、一層否定できない。

そのほか、「被害者参加制度」が、現行の刑事訴訟の、検察官と被告人・弁護人との二当事者の構造を変容させるおそれがあることや、犯罪被害者等の生の声を伝えるという要請については、既に、犯罪被害者等の意見陳述制度が導入されていることを指摘する。

上述のように、「被害者参加制度」には、刑事司法の原則に照らしても、刑事司法の実務運営に与える影響の面においても、検討すべき点が多々あるにもかかわらず、国民への問題提起や国民の間での議論もほとんど行われてはいない。本年3月7日、「被害者と司法を考える会」が法務省に対して制度の見直しを求める要望書を提出したことが報じられており、犯罪被害者等の中にも、「被害者参加制度」に賛成しない意見があることも明らかになっている。

よって、当会は、現在審議中の「被害者参加制度」の導入に、反対の意見を表明する。

2007(平成19)年4月10日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里

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教育基本法「改正」法案に反対する会長声明

教育基本法「改正」法案に反対する会長声明

1 政府は、2006年4月28日、教育基本法の全部を改正する法案(以下「法案」という。)を国会に提出した。

当会は、ここで教育基本法に加えられようとしている変更は、憲法の精神に沿わないものと考えるので、この法案に反対する。

2 憲法26条1項は、教育を受ける権利を保障し、教育の機会均等を定めている。

教育を受ける権利の背後には、国民はすべて個人として尊重され、また、子どもは、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有するとの観念が存在している。子どもは、いうまでもなく、憲法に定められた思想・良心、信教、学問などの各自由を享受する人格として発達することを保障され、親や教員も上記各自由を保障された者として、子に教育を行う自由が保障される。このような憲法の立場は、国連子どもの権利条約29条などに示される国際社会の教育に関する考え方にも合致している。

現行の教育基本法(以下「現行法」という。)は、憲法が提示する教育の理念に合致している。しかし、法案は、むしろ、以下に述べるとおり、憲法に反した方向に教育基本法を変えるものである。

(1)まず、法案は、教育を、個人の権利・子どもの権利保障というよりも、国家にとって都合のよい人材育成をする制度に変容させるおそれが強いものである。

法案は、教育基本法前文の「真理と平和を希求する人間の育成」(現行法)を「真理と正義を希求し、公共の精神を尊(ぶ)・・・人間の育成」(法案)に変え、「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育」(現行法)を「伝統を承継し、新しい文化の創造を目指す教育」(法案)に変え、更に、法案は、前文に「我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立」という部分を加えている。

第1条の、教育の目的を定める条文でも、育成を期するべき人間像が「個人の価値をたつとび」「自主的精神に満ちた」(現行法)から「国家及び社会の形成者として必要な資質」(法案)と変えられている。

そして、特に、法案2条は、「我が国と郷土を愛する態度を養う」ことを教育の目標として定めている。

「平和」「個人の価値」が「公共」「伝統」「我が国を愛する」に置き換えられた、その先において、国家、時の政府にとって望ましい考え方や国家にとって望ましい形の「愛国心」だけが、教育を通じて子どもたちに教え込まれ、本来多様であってしかるべき内心や価値観にかかわる領域が踏みにじられ、憲法に違反することになりかねないと当会は大いに危惧する。教育の場は、国家にとって都合のよい人材作りに利用しやすいが故に、内心の自由が侵されやすいものであったという歴史を今一度想起すべきである。

(2)法案は、現行法10条の、教育行政が教育内容に介入することに歯止めをかける条項を完全に変質させる危険のあるものである。

現行教育基本法10条1項は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と定め、法令に基づく教育行政機関の行為も「不当な支配」に当たりうると解されてきたところである。

このような解釈を前提に、教員に対し、入学式、卒業式等における日の丸掲揚時の起立と君が代斉唱などを校長から職務命令された場合に従わなければ処分を受けるとする東京都教育委員会の通達に関して、東京地方裁判所は、本年9月21日、外部的行為規制といえども憲法19条が定める思想良心の自由を侵害し違法であり、また、教育委員会通達は教育基本法10条1項所定の『不当な支配』に該当するものとして、通達は違法であるとの判断を下した。

法案は、現行法の「教育は国民全体に対し直接に責任を負って行われるべき」との文言を削除して、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」と規定する。

更に、法案は、教育行政の役割を教育目的遂行に必要な諸条件の整備確立に限定する現行法2項を削除している。

国家が、法律によりさえすれば、国民の教育全般を管理・統制できるようになることが危惧される。

3 今、教育は、いじめや不登校、学級崩壊等の深刻な状況を抱えている。国連子どもの権利委員会も指摘するように、これらは主として、「過度に競争的な教育制度」に原因がある。

ところが法案は、9年間の義務教育期間の定め(現行法4条)をなくし、能力主義、競争主義を押し進めようとする。男女共学の規定(現行法5条)も全部削除された。ますます教育格差を広げる方向であり、教育が抱えている問題の解決に逆行する。

4 法案は、上述のごとき重大な問題を含んでいるにもかかわらず、国民に対して十分な情報開示がなされず、国民的議論が行なわれないままに作成・提出され、与党において、今国会中の成立が目指されている現状にある。

準憲法的な性格をもつとさえ言われる教育基本法が、十分な国民的議論を経ないままに、拙速に「改正」されることは到底許されることではないと考える。

5 なお、民主党の提出した「日本国教育基本法案」は、法案への対案として出されたものではあるが、国家・行政による教育内容の支配をもたらすものであること、個人の価値という言葉を削除して、日本を愛する心を盛り込み、教育の機会均等を弱めるなど、法案と同様の問題を持つものである。とりわけ、10条から「教育は、不当な支配に服することなく」との文言まで削るなど、政府案より問題のある部分も見受けられる。

6 よって、当会は、教育基本法「改正」法案に強く反対する。また、民主党の「日本国教育基本法案」にも反対し、両法案の廃案を求めるものである。

2006(平成18)年11月13日

滋賀弁護士会 会長 羽座岡広宣

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非弁活動を行う一部行政書士に関するご注意

非弁活動を行う一部行政書士に関するご注意

最近、一部の行政書士に、「法務相談」等と称して、法律相談を行い、さらに報酬を得て代理人となり、交通事故に関する損害賠償請求事件、離婚事件・遺産分割事件等の争いのある事件の処理に関わるケースが見られます。

行政書士の業務は、基本的には官公署に提出する書類等の書類作成となっております。相談に応じる場合でも書類作成についての相談に限定されています。当然ながら、訴訟、調停申立の代理人となることは出来ませんし、当事者間に争いのある事件に代理人として関与し、相手方と交渉等を行うことも許されてはおりません(注1)。

一部行政書士による、代理人としての業務遂行は、依頼者にとって、適切な法的サービスを受けることが出来ない結果となり、大きな損害を被る可能性も大きいと言わざるを得ません。また、行政書士によるこのような法律事務の取扱は、弁護士の法律事務独占を定めた弁護士法(注2)に反し、刑事処分の対象ともされています。

県民の皆様には、このような非弁活動を行う一部行政書士にご注意のうえ、くれぐれも依頼をされることのないようお気を付け下さい。

【注1】行政書士法は、行政書士の業務について、(1)官公署に提出する書類その他権利義務または事実関係に関する書類作成(行政書士法第1条の2)、(2)第1条の2により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続についての代理(同法第1条の3第1号)、(3)第1条の2により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること(同法第1条の3第2号)、(4)第1条の2により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応じること(同法第1条の3第1号)としています。

【注2】弁護士法72条においては、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを業とすることは、弁護士法又は他の法律に別段の定めがない限り、出来ないとしており、これに反した場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処するとしています(同法77条)。

2006(平成18)年 10月13日

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上限金利引き下げについての緊急声明

上限金利引き下げについての緊急声明

現在、貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しについて、来年の法改正に向けて法案の検討が進められている。

金融庁貸金業制度等に関する懇談会において、一旦は、いわゆるグレーゾーン金利を廃止したうえで上限金利を利息制限法にそろえるのが委員の意見の大勢であることが明示されたが(平成18年4月21日)、その後、金融庁がグレーゾーン金利を一定期間存続させる旨の暫定的措置や少額短期の融資に対する特例を認める案を与党に提示し(同年9月5日)、与党が一部暫定的措置を認め更に利息制限法の金利区分を変更する独自案をまとめる(同年9月19日)などの動きがある。

しかし、そもそも今回の法改正の目的は、最高裁判所が貸金業規制法43条(グレーゾーン金利)を極めて厳格に解釈して利息制限法による債務者救済を図る判決を相次いで示したことを踏まえ、深刻な多重債務問題を解決するために行うためのものである。にも関わらず、上記のようにグレーゾーン金利を暫定的にでも存続させたり、利息制限法の制限を超える特例を認めたり、また利息制限法の金額刻みを変更したりすることは、上記法改正の目的を無視する本末転倒なものであるとともに、高金利の引き下げを求める国民の声に逆行するものである。とりわけ、利息制限法の金利区分を変更する案は、実質的には利息制限法の制限利率の引き上げにほかならず、今回の法改正の目的に明らかに逆行するものである。

当会は、改めて政府及び国会に対し、グレーゾーン金利の即時撤廃、出資法上限金利の利息制限法金利への例外なき引き下げ、現行利息制限法の金利区分の維持を強く要請するものである。

2006(平成18)年 10月13日

滋賀弁護士会 会長 羽座岡広宣

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「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」案に対する会長声明

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」案に対する会長声明

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」案(以下、「均等法改正案」という。)は、現在開会中の第164国会に内閣から提出され、4月28日参議院本会議で、「5年後の見直し」規定を付加して修正議決し、同日衆議院に送付された。

日弁連では、既に昨年6月16日付で均等法改正について詳細な意見書を発表しているほか、本年4月5日、具体的法案に関して、「間接差別」・「仕事と生活の調和」・「賃金」という特に重要な3点に絞って日弁連会長声明を発した。その後の参議院厚生労働委員会の審議の中でも、やはり、これらの点が議論の中心となっており、その問題性がますます明らかとなってきている。

1.「間接差別」とは、性別以外の理由による措置が、実質的には性別による差別に等しい効果をもたらすものをいう。昨年6月22日厚生労働省から発表された学識経験者らによる「男女雇用均等政策研究会報告書」では、間接差別法理導入の目的を「一方の性に対して不利益を与える不必要かつ不合理な障壁を取り除き実質的な機会の均等を確保することにある」と述べている。 しかし、均等法改正案7条では、禁止対象(間接差別)を「労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置」と定義しながら、これを一般的に禁止するのではなく、「厚生労働省令で定めるもの」に限定して禁止している。しかも、省令で定めるものは、(1)募集・採用における身長・体重・体力要件、(2)コース別雇用管理制度における総合職の募集・採用における全国転勤要件、(3)昇進における転勤経験要件の3類型に限られるという。これでは、雇用形態の違い(正社員・契約社員・パートほか)を要件としたり、「住民票上の世帯主であること」(平成14.7.3.大阪高裁判決・被災者自立支援金請求事件)を要件とするなど、現存する多くの間接差別が、改正均等法では許されるがごとき印象を与える。

政府は、今回省令で定められる予定の類型外のものについては、「判例の集積を待つ」「公序による制限も考えられる」と説明している。しかし、法令が「禁止すべき措置」を限定列挙する場合、該当しない措置については合法性が推定されるから、省令で定める以外の間接差別を訴訟で争うことは、法改正前よりむしろ困難となるおそれがある。一方、間接差別の外形を有する措置も、事業主が「合理的な理由」を証明すれば、違法な差別とはされないから(改正案第7条後段)、禁止対象を限定しなくても事業主の正当な利益が害されるおそれはなく、何が禁止の対象となるかについては、「指針」(10条)で例示列挙する方法により、適切な対処が可能である。

よって、法律案7条の条文から、「・・・として法律で定めるもの」という文言を削除して、「省令」による限定列挙をやめ、「指針」(10条)により間接差別となるものを例示列挙する方法をとるべきである。

2.参議院では、改正均等法の目的・理念に「仕事と生活の調和」を明記する必要性についても多くの議論がなされたが、政府は、「仕事と生活の調和」の重要性は認めながらも、均等法とは趣旨が異なるので記載しないという。

しかし、長時間・過密労働や住居の移転を伴う転勤など、男性労働者の仕事と生活の調和を無視した労働の実態が、家庭責任の男女平等分担の促進を妨げ、女性労働者の仕事と生活の調和を一層困難にしている。雇用の場における男女の機会均等の実現は、男女労働者が、ともに「仕事と生活の調和」をはかりつつ働き続けることのできる条件整備なくしては、ありえない。

よって、均等法の目的・理念(1〜2条)に「仕事と生活の調和」を明記して、法の解釈・適用のあり方を示すとともに、啓発活動(3条)や基本方針の内容(4条)・調査等の対象(28条)等とすべきである。

3.均等法改正案6条では、均等法の差別的取扱禁止規定の対象として、新たに「降格」等を追加したが、「賃金」は均等法の禁止対象とはされていない。

政府は、賃金差別に関しては、労働基準法に男女同一賃金を定める規定(4条)があるため、重複した規定は不要であると説明する。

しかし、直接差別でも間接差別でも、雇用の場における差別は、結局のところ、その殆どが「賃金」の格差として収斂される。均等法の差別取扱の禁止対象に「賃金」を加えることで、均等法特有の諸規定、例えば、「間接差別」(改正7条)、「紛争当事者に対する援助」(11条以下。助言・指導・勧告・調停等。)「事業主に対する措置」(25条以下。報告の徴収・助言・指導・勧告・公表等。)等を、賃金についても利用することができるようになる効果がある。

よって、「賃金」についても、均等法の差別禁止対象に加えるべきである。

4.なお、参議院では、「5年経過後の見直し」を付加する修正がなされたが、めまぐるしく変化する現代にあっては、その見直しの頻度も、せめて2年程度とすべきである。また、参議院厚生労働委員会では、その議論をもとに、ポジティブアクション(積極的是正措置)の一層の普及推進等を含む7項目の付帯決議がなされたが、衆議院においては、これらにも留意し、より充実した論議がなされ、よりよい改正がなされることを望むものである。

2006(平成18)年 5月18日

滋賀弁護士会 会長 羽座岡広宣

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「日野町事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

「日野町事件」再審請求棄却決定に関する会長声明

去る3月27日、大津地方裁判所は、再審請求阪原弘氏に対する再審請求事件について、再審請求を棄却する旨の決定を出した。

同事件は、1984年12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した。1988年に阪原氏が強盗殺人罪の被疑事実により逮捕、そして起訴され、2000年9月、上告棄却により無期懲役の判決が確定した。

確定した有罪判決は、直接的な物的証拠がないばかりか、状況証拠としても阪原氏と犯人を結びつけるものがなく、任意性と信用性に問題のある自白しかないなかで出されたものであった。阪原氏は、取調段階では自白をさせられたものの、第一審以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた。そして、2001年11月、本件再審請求がなされた。

再審請求においては、弁護団から、64点にも及ぶ、いずれも重要な新証拠が提出された。最高裁白鳥・財田川決定は、再審における新証拠の明白性判断について、当該新証拠と他の前証拠を総合的に判断すべきとし、その判断にあたっては、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されるものと解すべきである」とし、この判断基準が判例として確立している。

ところが、本件棄却決定は、総論としては新旧証拠の総合的評価を行なうと述べながらも、各論では、各証拠を分断して個別に判断を行なった。また、その判断の場面でも、新証拠等に基づく弁護団の主張を相当程度認めながら、「そうではない可能性もある」「(自白内容と客観的証拠に矛盾があっても)これらは記憶違いに基づくものと説明することが可能」等の理由を付して、最終的に弁護団の主張をいずれも退けた。例えば、新証拠により、阪原氏の殺害態様についての自白が、死体の損傷状況と矛盾することが明らかになったが、それについても記憶違いで説明が可能と片付けてしまった。殺害態様を忘れる殺人犯人は通常考えられず、そこには、「疑わしきは被告人の利益に」という理念は全く見られない。このように、本件棄却決定は、新旧証拠の総合評価をしていない点及び「疑わしきは被告人の利益に」との鉄則に反している点で、明らかに、最高裁白鳥・財田川決定により確立された判断基準に反する。

さらに、本件棄却決定には、一度自白をすれば、それを金科玉条のものとする自白偏重主義、捜査官による違法捜査は通常なされないとする考え方等も根底に見受けられ、まさに、刑事司法の問題点として指摘されている点が凝縮されていると言わざるを得ない。

このような再審理念に反する棄却決定に対し、阪原氏は直ちに即時抗告を行なった。本件は滋賀の地元事件であり、当会も、再審開始に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。

2006(平成18)年 4月14日

滋賀弁護士会 会長 羽座岡広宣

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高金利引き下げに関する会長声明

高金利引き下げに関する会長声明

出資法の上限金利規制の見直し時期が来年早々に迫っていることもあり,最近,貸金業界は,金利規制の緩和を求める動きを見せている。

しかしながら,多重債務問題は,今なお深刻な状態にあり,到底,金利規制を緩和すべき社会状況にはない。破産者は年間約20万人,経済苦・生活苦による自殺者は年間8,000人にも達している。高金利とこれに起因する多重債務問題は,経済的に困窮する市民の人権にも関わる社会問題である。

昨年末から本年初めにかけて,最高裁判所は,貸金業の規制等に関する法律43条について,きわめて厳格な解釈を示す判断を下した。

利息制限法は,年利15%ないし20%を越える金利の定めを無効としている。にもかわらず,貸金業者は,未だに,これを越える金利で営業を行っている。そのよりどころとなっていたのが,貸金業規制法43条であった。 今般の最高裁の判断は,高金利を容認し助長するみなし弁済規定に強力な枠をはめたものであり,この問題に対する司法府の態度を明らかにした,きわめて重要な意義を有するものである。

当会は,これらの最高裁判決を歓迎するとともに,貸金業界に対し,業務の適正を図ることを求める。また,政府,国会に対しても,出資法の上限金利を,少なくとも,利息制限法の水準にまで引き下げ,いわゆるグレーゾーン金利の廃止を実現することを強く求める。

2006(平成18)年3月6日

滋賀弁護士会 会長 生駒英司

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弁護士に対する「疑わしい取引」の報告義務の制度化に関する会長声明

弁護士に対する「疑わしい取引」の報告義務の制度化に関する会長声明

FATF(国際的なテロ資金対策に係る取り組みである「金融活動作業部会」の略称)は、2003(平成15)年6月、マネーロンダリング及びテロ資金対策を目的として、従前から対象としていた金融機関に加え、弁護士などに対しても、不動産の売買等一定の取引に関し「疑わしい取引」を金融情報機関(FIU)に報告する義務を課すことを勧告した。これを受けて、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、2004(平成16)年12月、「テロの未然防止に関する行動計画」を策定し、その中でFATF勧告の完全実施を決めた。

このFATF勧告そのものについて、世界の弁護士は、依頼者の疑わしい取引に関する報告義務を弁護士に課す制度は、弁護士制度の本質にかかわるものであることから反対しており、日本弁護士連合会もFATF勧告の完全実施のための国内法制度化に反対する意思を表明をしてきたところである。

すなわち、依頼者との信頼関係を基礎として業務に携わっている弁護士は依頼者情報に関して重い守秘義務を負っているところ、依頼者の「疑わしい取引」に関する情報を政府機関に提供するということは、この弁護士の守秘義務と真っ向から衝突し、弁護士の業務遂行に重大な支障を生じさせることとなるのである。

ことに、2005(平成17)年11月17日、政府は、FATF勧告実施のための法律の整備の一環として、金融情報機関(FIU)を金融庁から警察庁に移管することを決定したが、このことは、刑事弁護の領域において検察・警察当局と拮抗関係にある弁護士の地位に鑑みれば、問題性はより深刻であり、容認できるものではない。弁護士が依頼者情報を警察当局に通報する義務を負うということは、在野弁護士の存在基盤・意義を危うくし、依頼者のみならず、市民の信頼も大きくそこねることになる。

そもそも、金融機関をはじめとして、あまねく顧客の「疑わしい取引」情報を警察に報告する義務を定めること自体、警察権力の肥大化、密告社会、警察国家化を招来しかねないもので、大いに疑問があるところ、検察・警察当局と拮抗関係にある弁護士をもこれに加えることは、その危惧を一層深刻化させるものである。

以上のとおり、FATF勧告の国内完全実施、警察への報告制度は、密告社会化、警察国家化を招来しかねないものであり、とりわけ、我々弁護士に対してかかる報告義務を定めることは、弁護士、弁護士会の国家権力からの独立性、依頼者との信頼関係、依頼者情報の守秘義務といった弁護士制度の根幹をゆるがすものであり、このような制度構築については断固反対するものである。

2006(平成18)年1月30日

滋賀弁護士会 会長 生駒英司

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憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する会長声明

憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する会長声明

2005(平成17)年12月20日,自民,公明,民主3党は,改憲手続を定める国民投票法案を2006(平成18)年の通常国会に議員立法で提出することを合意した。当会は,人権擁護を使命とする弁護士会として,この情勢に強い懸念を抱いている。

現在準備されている憲法改正国民投票法案には,看過できない重大な欠陥が存在している。すなわち,憲法改正の国民投票という最大の重要問題であるにもかかわらず,十分な国民的議論を尽くすための環境の整備を図るどころか,逆に,議論を制限するような条項が多く含まれているのである。

問題点の第1は,国民投票を,発議の日から起算して30日以後90日以内に行うとされている点である。憲法改正という重要事項について,わずか30日で投票させるのは短期にすぎる。十分な国民的議論を経るだけの時間をおくことが必要である。

問題点の第2は,複数の条項について改正案が発議された場合に,個別の条項ごとに投票できるのか,一括して投票するしかないのか,法案自体に明確に規定されていない点である。個別の条項それぞれについて,国民の意思が適切に反映されるような投票方式を保障する必要がある。

問題点の第3は,国民投票運動に関して,過剰な規制が設けられている点である。憲法改正国民投票は,国会議員を選出する選挙と異なり,個人的利害が絡む場面は少ない。利益誘導や買収等の危険性は,議員選挙と同一には論じ得ない。したがって,公職選挙法の規制を,そのまま憲法改正国民投票に適用することは,妥当でない。ところが,法案では,公務員及び教育者の国民投票運動の禁止,外国人の国民投票運動の禁止等,予想投票の公表の禁止など,過剰な規制が予定されている。

問題点の第4は,表現の自由に対する制約,報道への過剰な規制が定められている点である。法案の条文は,「虚偽の事項を記載し,または事実をゆがめて記載する」などの行為を禁止し,違反に対しては刑事罰を科する旨規定している。しかし,何が虚偽で,何が事実をゆがめる行為かという判断は,きわめてデリケートで判断が困難である。このような曖昧な構成要件で,表現活動を刑事罰をもって規制することは,表現活動の萎縮効果が大きすぎる。とりわけ,憲法改正という政治的重要事項については,最大限の表現の自由,報道の自由を確保することが要請される。

問題点の第5は,国民投票の過半数を,有効投票総数の過半数と規定している点である。憲法改正の可否を,国民の直接投票によって決定することとした,現憲法の考え方の基本には,国民の多数の支持がなければ憲法改正を認めないという理念があるものと考えられる。ところが,予定されている法案では,投票率がきわめて低い場合でも改正が可能になってしまうし,無効票が多数発生した場合の取扱いについても検討が不十分である。最高裁判所裁判官国民審査投票と同じように,ほとんどが白票だった場合でも,憲法改正が可能となりかねないのである。

問題点の第6は,国民投票無効訴訟制度についての検討が不十分な点である。国民投票の効力に関する訴訟は,30日という短期の除斥期間に服し,東京高裁のみに管轄があるものとされている。

そもそも,今回の法案提出の動きは,憲法9条の変更を企図したものであることは明らかである。9条の改変と無関係に,中立的な意味で,法の制定の動きがあるわけではない。2005(平成17)年11月11日,日弁連は,鳥取市で人権擁護大会を開催し,「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」を採択した。その中で,我々は,「日本国憲法第9条の戦争を放棄し,戦力を保持しないというより徹底した恒久平和主義は,平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有するものである」ことを確認し,「憲法改正をめぐる議論において,立憲主義の理念が堅持され,国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されることを求める」ことを宣言した。今回の国民投票法案提出の動きは,こうした日本国憲法の基本原理の尊重とは対立する策動であり,我々は,憲法の基本原理を支持し擁護する立場から,法案の提出に,強く反対するものである。

2006(平成18)年1月30日

滋賀弁護士会 会長 生駒英司

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「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正について」に関する意見書

「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正について」に関する意見書

2005(平成17)年8月29日

金融庁監督局総務課金融会社室 御中

滋賀弁護士会

金融庁の平成17年8月12日付「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正について」(以下,本件改正案という)に対し,当会は下記のとおり意見を表明する。

意見の趣旨

弁護士から,債務整理を受任した旨の通知書(写しを含む。以下「受任通知」という。)を受け取ったときは,貸金業者は,取引履歴の開示の義務を負うものとし,受任通知以外に,本人確認のための書類の提出を要しないことを明記すること。

意見の理由

1.今回の改正案では,貸金業者に取引履歴開示義務があることを明確にし,違反に対しては,行政処分も行なうことが明らかにされている。この点については,最高裁の平成17年7月19日判決をうけて,すみやかにその趣旨をガイドラインに反映させるものであり,その趣旨には賛成する。

2.しかしながら,弁護士からの取引履歴開示請求に対して,委任状,印鑑証明書,その他の本人確認の書類が必要とされるとする部分,とりわけ,各種書面の原本の提出を要するとの改正については,重大な問題がある。これらの改正点は,取引履歴のすみやかな開示を促す前記最高裁判決の趣旨にも逆行するばかりか,受任通知のみで取引履歴が開示されてきた従来の実務を,大幅に後退させるものである。

3.貸金業者のほとんどは,利息制限法を超える約定利息で貸付を行い,不当な利得を得ている。彼らは,盛んに広告宣伝を行なうが,利息制限法に違反する約定利息であることは隠し続けている。そもそも,このような業態は,契約の公正さを求める消費者契約法の精神に反するし,企業としてのコンプライアンスにも欠けるというほかない。このような不公正な営業方法こそが,取引履歴の開示を必要とする根本原因である。利息制限法を超える利率での貸付をやめることこそが,本来あるべき解決の方向性である。今回の最高裁判決は,このような背景をふまえ,貸金業者の営業の適正化を求めたものなのである。判決を踏まえるならば,履歴開示請求の負担を軽減するべきであって,逆に従来以上の負担が強いられることは,背理である。

4.今回のガイドライン改正案をそのまま読むと,履歴開示を求めるにあたって,

5.そもそも本人確認法は,テロリズムに対する資金供与の防止・組織的な犯罪やマネーロンダリングの防止及び公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等が金融機関等を通じて行われることの防止を目的として(1条),預貯金契等の締結等の取引の際に(3条)厳格な本人確認を義務づけたものである。このような厳格な手続は,貸金業者に対する取引履歴開示の場面で,必要とされるものではない。取引履歴開示は,テロやマネーロンダリングとは無関係である。たしかに,貸金業者との取引履歴データは,個人情報であり,これが容易に漏洩するようなことは,防止しなければならない。しかし,弁護士が,債務者本人から委任を受けずに,取引履歴の開示を求めるなどという状況は,一般的には想定しがたい。債務整理に限らず,弁護士は,依頼者からの委任の意思を,常に慎重に確認している。本人の意思によらずに,取引履歴の開示を受け,これを第三者に漏洩するような事態は,ガイドライン改正案のような方法をとらなくとも,弁護士会の懲戒制度や,損害賠償請求によって,その事態の未然防止が担保されていると言ってよい。現行の受任通知のみによる取引履歴開示の実務において,これが悪用されて,個人情報が漏洩したなどという不祥事が問題とされることはない。膨大な数の履歴開示請求がなされているにもかかわらず,現実には,取り立てて問題が起こっているとは思われない。

6.以上のとおり,今回の改正案のうち,本人確認の厳格化の部分については,現実の必要性がないにもかかわらず,債務者側に過剰な負担を強いるものであって,到底賛成しかねる内容である。すでに,貸金業者の中には,個人情報保護に名を借りて,これを履歴開示に抵抗する口実とするものも現れ始めている。ガイドラインでは,従来のとおり,受任通知(FAX等による送信を含む)のみで,取引履歴の開示義務があることを明示し,現場の混乱を収束させるべきである。

以上

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共謀罪の新設に反対する会長声明

共謀罪の新設に反対する会長声明

「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下、「国連条約」といいます。)に基づき、国内法化を図るものとして、平成15年の通常国会から衆議院解散に伴う廃案を挟んで4国会にわたって継続審議となっている、「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下、「法案」といいます。)が、今国会において審議日程にあがっています。

法案においては「共謀罪」の新設がなされようとしておりますが、同罪は以下のように市民生活にとって重大な脅威となるもので看過できない問題を含んでいるので、当会としては同罪の新設に反対をします。

1 共謀罪は、

について

は、

もしくは

に処する

とするものです。

2 ここに「共謀」とは、犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議、謀議の結果として成立した合意をいいます。犯罪は、犯罪実行の意思形成、犯罪行為の準備、犯罪行為の実行着手、犯罪の結果発生という段階を踏んで成立するものですが、犯罪行為の実行のない準備行為は原則として不可罰であり、ましてや外形的行為の認められない意思形成の段階は処罰しない、というのが我が国の刑法の大原則です。

ところが、「共謀罪」は、犯罪意思形成の段階にすぎない「共謀」それ自体を処罰の対象とするものであり、刑法の原則に反するものです。

また、「共謀」という概念自体が非常に不明確なものであることも相まって、これが創設されるなら、思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が、重大な脅威にさらされることとなります。 は疑いがありません。

3 また、法案の前提とされている国連条約第3条1項でさえ、条約の適用範囲として、「性質上越境的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」として、対象団体を限定されています。しかし、法案にはそのような限定はなく、広く、政党、NPOなどの市民団体、労働組合、企業等も含まれることになり、共謀罪を根拠にこれらの団体に捜査の網がかぶせられることとなります。

さらに、国連条約第5条1項では、締約国がとらなければならない立法措置の要件として「金銭的利益その他物質的な利益を得ることに直接または間接に関連する目的のために重大犯罪を行うこと」を求めています。しかし、法案の共謀罪ではこのような縛りもかけられておらず、かえって、死刑、無期を含む長期4年以上の犯罪にその適用が拡大されているのです。その対象とされる犯罪の類型は現行法上557もの犯罪に及びます。

4 以上、共謀罪の新設は、刑法上の基本原則に反し、その人権保障機能にも反するものであるので、当会としてはこれに断固反対をするものであります。

2005(平成17)年7月12日

滋賀弁護士会 会長 生駒英司

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少年法等の一部改正法律案に関する会長声明

少年法等の一部改正法律案に関する会長声明

政府は、2005年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下、「『改正』法案」という。)を閣議決定し、同日付で国会に提出し、6月14日に衆議院での審議が開始された。

しかし、「改正」法案の内容たる、

  1. 触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与
  2. 少年院送致年齢の下限撤廃
  3. 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分の導入

の点については、児童相談所の調査機能や児童自立支援施設の育て直し機能を無視、阻害するものであり、また保護観察制度の根底を揺るがすものであることから、当会は以下のとおり反対の意思を表明する。

1.触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与

「改正」法案は、

を定めている。

しかし、触法少年、特に重大な事件を犯した触法少年の多くは、被虐待体験を含む複雑な生育歴を有しており、少年自身が人格を傷つけられてきた経験を有している。また、これらの少年は表現能力に欠け、被暗示性、迎合性を有しているという特殊性もある。

このような、触法少年の特殊性からすれば、触法少年に対する事情聴取の担い手は、子どもの心理を学び、カウンセリング能力を身につけた専門家とされるべきであり、福祉的、教育的観点から児童相談所を中心になされるのが相当である。

このような配慮から、従来、触法少年については、警察の調査権限は認められず、児童相談所の調査に委ねられてきたのである。そして、児童相談所が、少年に対して適切な福祉的働きかけをする前提として、家庭裁判所の調査・審判を経ることが望ましいと判断した場合には、家庭裁判所に対して審判を求めていたのである。家庭裁判所は、審判を行う上で必要とあれば、自ら調査し、または他の機関に対し援助、協力させることができるのである。

過去の実績からしても、このような従前の手続によって少年の処分を決めるために必要な事実の解明はなされてきたのであり、このような従前の手続を経てもなお事実が解明されないといった例は法制審少年法部会における審議の中でも報告されていない。

以上のとおり、触法少年事件の調査は児童相談所を中心に行うことが適切である。これに対して、少年心理学等の専門知識を有せず、事件の立件、裏付けを仕事とする警察に事実の解明を委ねることは、自白強要をまねきかねず、また、そのような観点から の事実の解明は、かえって事件の背景事情、深層心理に踏み込んだ真相解明の障害としかならない。

近時、非行に関する児童相談所の調査能力が十分でないとの指摘もあるが、これについては児童相談所に必要な人員を配置してこなかった行政の無策に起因するものであり、警察に調査を任せることで解決しようとするのは誤りである。

なお、「改正」法案は、「ぐ犯少年である疑い」のレベルで警察の調査権限を認めているが、そもそも「ぐ犯」とは犯罪ではなく、将来法を犯す「おそれ」にすぎず、さらにその「疑い」のレベルで調査権限を認めるのでは、要件での縛りがきかず、結局のところ調査権の発動が警察の恣意に流れ、不当に拡大される危険が大きい。また、警察の調査は、学校等の公務所、団体へ照会することも可能であるとされていることからすれば、少年の生活全般が警察の監視下におかれるという危惧を払拭できない。

2.少年院送致年齢の下限撤廃

「改正」法案は、昨今問題となっている低年齢少年による非行事件を契機として少年に対する厳罰化を主張する一部の世論に押される形で、少年院送致年齢の下限を撤廃している。

しかし、まず、14歳未満の少年による事件の凶悪化といった事実は統計上も認められず、このような点を少年の厳罰化の根拠とすることはできない。

また、少年院における矯正教育は、少年に規範を遵守する精神を育てることを目的として集団的になされるものであるが、このような集団的矯正教育は低年齢少年にふさわしい処遇とはいえない。前述したように触法少年、とりわけ重大事件を犯すに至った少年ほど、被虐待体験を含む複雑な生育歴を有していることが多く、そのため、人格形成が未熟で対人関係を築く能力に欠けており、規範を理解して受け入れるところまで育っていない子どもが多い。したがって、再発防止のためには、まずは暖かい家庭的雰囲気の中での「育て直し」をすることが必要なのである。このような観点からは、低年齢少年に対しては、施設収容する場合でも、福祉的、教育的、個別的対応を専門とする児童自立支援施設での処遇こそが適切なのである。

児童自立支援施設においては、低年齢の少年に対する、福祉的教育的処遇を行うべく多大の努力がそそがれ、そこにおける処遇も一定の評価がなされる中、一層の専門性強化、そのための人的物的資源のさらなる充実が求められているところである。にもかかわらず、このような児童自立支援施設の充実に着手することもないままに、単に14歳未満の少年の少年院送致を可能とすることをもって、低年齢少年の非行に対処しようとするのは本末転倒と言わざるを得ない。

3.保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分導入

「改正」法案は、保護観察中に遵守事項に違反した場合、その違反の事実をもって少年院送致等の措置をとることができる、としている。

しかし、現行法においても、保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度などが存在しており、それに加えて新たな制度を創設する必要性について現場の意見を聴取するなどの検証は全くなされておらず、また、非行を犯すおそれがあるとまでもいえない時に、単に、約束を守らなかったというだけで少年院送致するというのは行き過ぎという他なく、憲法上の一事不再理、二重処罰の禁止に実質的に反するものである。

そもそも、保護観察制度は、少年の自ら立ち直る力を育てるため、保護観察官と保護司が少年との信頼関係(そこでは、遵守事項を破ってしまったことも素直に話せる関係が必要である)を前提にして、長期的な視点から、少年に対しねばり強く働きかけることにより、少年の更生をはかる制度である。

ところが、「改正」法案は、少年院送致を威嚇の手段として遵守事項を守るように少年に求めるものであり、このような関係の中では保護司と少年の関係も表面的なものとなり、真に少年の立ち直りを図ることができなくなってしまう。それは、今まで無償のボランテイアである保護司に支えられ、おおむね良い成果を誇ってきた我が国の保護観察制度の瓦解につながる。

この点についても、保護観察官、保護司の増員等、保護観察制度の実効性を確保する施策がまず講じられるべきであり、安易に制度の本質を変容させてはならない。

2005(平成17)年7月1日

滋賀弁護士会 会長 生駒英司

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合意による弁護士報酬敗訴者負担法案に反対する会長声明

合意による弁護士報酬敗訴者負担法案に反対する会長声明

第159回通常国会に、合意による弁護士報酬敗訴者負担制度の導入を内容とする「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」が上程されたが、審議未了のまま継続審議とすることが決まり、秋の臨時国会で本格的に審議されようとしている。

本法案は、弁護士報酬について、原則として従来どおりに各自負担としつつ、訴訟提起後に当事者双方に訴訟代理人がついて合意した場合には弁護士報酬の一部を敗訴者に負担させるというものである。

本法案の一番大きな問題点は、裁判外での私的契約に「この契約に関して訴訟で敗訴した者は勝訴した者の弁護士報酬を負担する」との条項(「敗訴者負担条項」)が盛り込まれた場合に生ずる弊害に対する手当てが何らなされていないことである。

私的契約に「敗訴者負担条項」が記載されている場合には、その条項に基づいて勝訴者は敗訴者に弁護士報酬を請求できると考えられている。こうした中で、合意による敗訴者負担制度が導入されると、そのことが誘因となって裁判外での私的契約や約款に弁護士報酬の「敗訴者負担条項」を記載することが広がっていくおそれがある。実際、消費者や労働者、中小零細業者などの弱い立場にある事業者は、私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」が記載されていてもこれを拒むことは事実上不可能であり、合意による敗訴者負担制度が導入された場合には、消費者契約、労働契約、フランチャイズ契約や下請契約など力の格差のある事業者間の契約などに「敗訴者負担条項」が記載されることが多くなると予想される。そして、現実に紛争が生じて裁判を利用しようとしたときに、私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」が存在していれば、消費者、労働者、中小零細事業者などの弱い立場にある人は、敗訴したときの弁護士報酬の負担を恐れて裁判の利用を躊躇することになり、市民、特に弱者の司法へのアクセスを阻害し、その裁判を受ける権利を侵害することになってしまう。

当会は、合意による弁護士報酬の敗訴者負担を導入するにあたっては、このような弊害を取り除くことが不可欠であると考えるものであり、以下のような立法上の手当てがなされない限り、本法案を廃案とすることを強く求める。

(1) 消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)、一方が優越的地位にある事業者間の契約などに盛り込まれた敗訴者負担条項は無効とすること。

(2) 消費者訴訟、労働訴訟、一方が優越的地位にある事業者間の訴訟においては、訴訟上の合意による敗訴者負担制度を適用しないこと。

2004(平成16)年8月2日

滋賀弁護士会 会長 桐山郁雄

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司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明

司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明

司法制度改革推進本部法曹養成検討会は、本年6月15日開催の検討会において、平成18年度から、司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止し、一定額を貸し付ける制度(貸与制)を導入するとの意見のとりまとめを行なった。政府は、この秋に予定される臨時国会に貸与制を盛り込んだ裁判所法改正案など関連法案を提出する方針との報道がなされており、給費制廃止へ向けて大きく動き出そうとしている。

滋賀弁護士会は、2003年9月16日、司法修習生の給費制維持を求める会長声明を出し、司法修習生に対する給費制の堅持を求めたが、今般給費制廃止へ向けての動きが急展開を見せていることから、あらためて給費制の堅持を強く求めるものである。

法曹は国民の権利義務に直接かかわる重要な職務に携わるものであり、民主主義国家の根幹たる法の支配の重要な担い手として、法律的能力と人格・職業倫理の双方について高度なものが必要とされる。司法修習制度は、こうした認識に基づき、法の支配の担い手となるべき質の高い法曹を養成するために設けられた重要な制度である。このような司法修習の重要性に鑑み、司法修習生は修習に専念することとされ、そのために司法修習生に兼業・兼職を禁止して修習専念義務を課すとともに、その一方で、その生活を保障するために給費制が取られてきたのであり、給費制は現行司法修習制度と不可分一体のものということができる。そして、この給費制と一体となった司法修習制度の下で、貧富の差を問わず、社会の幅広い層から多様な人材が法曹の道へ進むことが可能となった。

新しい法曹養成制度においては、法曹資格を得るには、大学卒業後も法科大学院に2年ないし3年在学することが必要となり、司法修習生となる前の段階においてすでに経済的負担は相当大きなものとなる。そのうえ、給費制が廃止されることになれば、法曹を志す者に対し更なる経済的負担を強いることになり、法曹となるにふさわしい多くの有能な人材が経済的理由から法曹への道を断念し、その結果、一部の経済的富裕者しか法曹資格を取得できないという事態を招きかねない。

また、貸与制の下では、新人法曹がその出発点において多額の負債を抱えることになり、そのことは、新しく法曹、特に弁護士となる者が経済的理由から公益的な活動への参加に消極的になるという事態を生じさせるおそれがある。

近時の司法制度改革は、「身近で、頼りがいのある司法」を実現するために、司法の担い手である法曹について、その量とともに質の拡充を謳っている。給費制は司法修習制度と結びついて質の高い法曹の養成を目的とするものであり、これを廃止することは、質の高い法曹を養成しようという司法制度改革の趣旨にも反すると言わざるを得ない。

よって、滋賀弁護士会は、再度司法修習生に対する給費制を堅持することを強く求める。

2004(平成16)年7月12日

滋賀弁護士会 会長 桐山郁雄

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自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明

自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明

政府は、イラク特措法に基づき昨年12月9日に自衛隊派遣基本計画を閣議決定し、航空自衛隊の先遣隊が派遣されたのに引き続き、本月9日には航空自衛隊の本体及び陸上自衛隊の先遣隊に派遣命令が出され、近日中に陸上自衛隊の先遣隊が出発し、その数日後にはイラク南東部のサマワに入る予定とされている。

しかし、そもそもイラク特措法は、イラクにおける自衛隊の武力行使を容認するものであり、他国領土における武力行使を禁じた日本国憲法前文及び第9条に違反するおそれが極めて大きい。

また、イラク特措法の基本原則では、自衛隊の対応措置は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域(非戦闘地域)において実施されるものとされ、武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならないと定められているが、イラクでは、連日のように米英兵等に対する攻撃や自爆テロが続き、その矛先は、国連や赤十字にも向けられ、ついに日本の外交官2名が殺害されるという痛ましい犠牲が出るに至り、フセイン元大統領の逮捕後も、事態が沈静化する兆しはない。

こうした状況でイラクに自衛隊が派遣されるならば、米英軍の協力者として格好の攻撃目標となり、自衛隊員が死傷する事態ばかりか、自衛隊員がイラク国民に対し武力による威嚇または武力の行使をせざるを得ない事態が発生するおそれが大きく、上記基本原則に照らし、現状のイラクへの自衛隊の派遣は到底許されるものでないことは明白である。

小泉首相が、「テロに屈してはならない」などと声高に強調し、日本国憲法の前文を都合よく引用して、なしくずし的に自衛隊のイラク派遣を強行することは、日本国憲法の平和主義の理念に背き、我が国の国際社会における「名誉ある地位」を失わしめる歴史的暴挙である。 当会は、以上の観点から自衛隊のイラク派遣に反対し、政府に対し自衛隊のイラク派遣の撤回を強く求めるものである。

2004(平成16)年1月13日

滋賀弁護士会 会長 吉田和宏

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「裁判員制度」に関する緊急声明

「裁判員制度」に関する緊急声明

裁判員制度は、国民の司法参加の拡充による司法の国民的基盤の確立を目指すものであり、今般の司法制度改革の大きな柱の一つである。よって、当会は、近々2004(平成16)年通常国会に裁判員制度にかかる法案が上程されるにあたり、以下のとおり強く要望する。

(裁判官と裁判員の人数について)

1、合議体の構成は、裁判官は1人又は2人、裁判員は9ないし11人とし、国民が主体的・実質的に関与できる制度にすべきである。

(取調べの可視化について)

2、裁判員にわかりやすい証拠調べのために、捜査段階における供述調書の任意性・信用性の判断が容易にできるよう、取調べの可視化(取調べの全過程の録音・録画)を実現すべきである。

(守秘義務について)

3、広く国民に裁判員制度の理解を広め、制度の運用状況を事後的に検証するため、裁判員の守秘義務はより限定的にすべきである。

特に、裁判員が任務を終えた後は、自己以外の発言者と発言内容が特定できる事項その他の職務上知り得た秘密を除いては、自己の意見・経験を自由に述べることを容認すべきであり、これを制限したり、守秘義務違反に刑罰を科したりすべきではない。

2004(平成16)年1月7日

滋賀弁護士会 会長 吉田和宏

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司法修習生の給費制維持を求める声明

司法修習生の給費制維持を求める声明

平成15年6月9日、財務省の財務制度等審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(建議)において、司法修習生に対する給費制の早期廃止を提言するなど、財務省を中心とした圧力が強まる中で、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会も、平成15年7月14日の第18回検討会において、十分な議論も尽くさないまま「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」という座長の取り纏めを行い、給費制廃止への動きが急速化している。

しかし、給費制は、修習生の生活を保障することで修習に専念させることにより、国家制度上の重要な環たる司法制度を担うに足る法曹を養成することを目的とするものであり、現行司法修習制度と不可分一体のものとして採用されてきた制度である。

この給費制の目的は、現在進行している数々の司法制度改革の中で、21世紀の社会が求める高い質の法曹を養成するという新しい法曹養成制度にも当然に妥当するものである。そして、国は司法制度改革実現のために必要な財政上の措置を講じる義務があることからすれば、単なる財政事情を理由に給費制を廃止することは全く不合理である。

また、新しい法曹養成制度においては、法曹を目指す者は2年ないし3年の法科大学院を経なければならず、仮に修習生の給費制が廃止されるなら、これと1年の司法修習期間を合わせて3年ないし4年間を無収入で乗り切らなければならないという経済的苦境に立たされ、それを理由に法曹となることを断念せざるをえない者を生じさせかねず、経済的富裕者のみにしか法曹の道が開かれないものとなってしまう。

さらに、給費制に代わる貸与制についても、法曹となっても必ずしも経済的な安定が保障されているわけでもなく、弁護士会費等でそれ相当の公的経済的負担があるなかでの返済は法曹としての経済的自立を害しかねず、また、プロボノ活動等の公的活動への参加も敬遠されかねない。なお、貸与制とリンクした裁判官、検察官任官者についての返還免除制度は、法曹という立場での司法制度その他の公益的な貢献度において差はないはずであるのに、官だけ優遇するという点で合理性を欠き、法曹三者の公平と平等を害するものといわねばならない。

したがって、司法修習生に対する国費による給費制を従前どおり堅持されるよう強く求める。

2003(平成15)年9月16日

滋賀弁護士会 会長 吉田和宏

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弁護士報酬の敗訴者負担の導入に反対する決議

弁護士報酬の敗訴者負担の導入に反対する決議

滋賀弁護士会は、平成13年(2001年)3月25日、司法制度改革審議会中間報告に対して、弁護士報酬の敗訴者負担制度導入に反対する会長声明を出して反対の意思を表明したが、以下に述べる理由から、あらためて弁護士報酬の一般的な敗訴者負担制度の導入に強く反対する。

1 市民の司法へのアクセスを抑制

司法制度改革審議会は『弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者に訴訟を利用しやすくする。』としているが、そのような事例はほとんど存在しない。裁判の見通しを判断することは困難な場合が多く、制度が導入されれば、敗訴しても相手方の弁護士報酬を負担できる経済的強者だけが裁判を利用し、一般市民や中小企業のような経済的弱者は敗訴の場合のリスクを恐れて提訴をためらうことになってしまう。

また、裁判を起こされた場合には、敗訴を恐れて十分に応訴することができず、不本意な解決を強制されることになる。

これでは司法へのアクセスを抑制することになってしまい、裁判を市民がより利用しやすいものにしようという「市民のための司法改革」の理念に反する。

2 司法による人権保障機能を弱体化、法創造機能を阻害

司法は人権擁護の砦であり、人権を侵害された人々は最終的には裁判所に救いを求めざるをえない。とりわけ、薬害訴訟、公害環境訴訟、労働訴訟、消費者訴訟、医療訴訟、住民訴訟、行政訴訟などは、立法及び行政における人権侵害に対して救済の重要な役割を担ってきた。しかし、制度が導入されれば、これらの訴訟も抑制され、司法の人権保障機能を弱体化させ、社会の変化に対応した判例の発展や司法の活力ある法創造機能をも阻害することになる。

以上のとおり決議する。

2002(平成14)年12月2日

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