滋賀弁護士会について

会長決議・声明

安全設計審査指針等が改訂されるまで原子力発電所を再稼働させないことを求める会長声明

2012(平成24)年6月12日
滋賀弁護士会
会長  荒川 葉子

1 原子力発電所事故による人権侵害

平成23年3月11日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「福島第一原発事故」という。)は,福島県を中心とした広範囲の土壌や海洋に放射性物質による汚染をもたらした。

汚染が深刻な地域の住民は,住み慣れた土地からの避難を余儀なくされ,生活環境の変化に苦しみ,また,多くの人が職を失い経済的負担に喘いでいる。さらに,現在及び将来にわたる放射線被曝による健康被害も深刻に懸念される。

放射性物質による土壌汚染,海洋汚染は,多くの重大な人権侵害を引き起こした。我々は,二度とこのような悲惨な原発事故を起こしてはならない。

2 原子力発電所の安全性を担保する法的な基準

ひとたび事故が起きれば深刻な被害を与える原子力発電所の安全性を担保するために,原子力安全委員会は,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」という。)を定め,経済産業省は,電気事業法39条1項に基づき,「発電用原子力設備に関する技術基準」(以下「技術基準」という。)を定めている(昭和40年6月15日通商産業省令第62号)。経済産業省は,この技術基準を,事業用電気工作物が人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないように定めなければならない(電気事業法39条2項1号)。また,原子力発電所は,13か月ごとに経済産業大臣が行う定期検査を受けなければならず(電気事業法54条1項),経済産業大臣は,定期検査において,設備が技術基準に適合していることを確認することとされている(「原子力発電工作物に係る保安規程及び定期検査に関する運用要領」平成21年2月16日経済産業省原子力安全・保安院)。経済産業大臣は,技術基準に適合しない原子力発電所に対しては,修理,改造,移転,一時使用停止,使用制限を命じることができる(電気事業法40条)。

そして,この技術基準は,安全設計審査指針と連動して定められており,安全設計審査指針は基本設計,技術基準は詳細設計と位置づけられている。

3 安全設計審査指針及び技術基準の瑕疵

福島第一原発事故により,安全設計審査指針のうち,「長期間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要がない」(指針27の解説)として短時間の全交流動力電源喪失だけを前提とする定め(指針27)や,いわゆる単一故障の考え方(指針9,24-26,32-34)が誤りであることが明らかになった。

原子力安全委員会の斑目春樹委員長でさえ,安全設計審査指針に瑕疵があったことを明言している。

そうすると,現行の安全設計審査指針が,原子力発電所の安全性を担保するものでないことは誰の目にも明らかであるし,これと連動する技術基準が電気事業法39条2項1号の「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えない」ように定められた基準でないこともまた明らかである。それは,現在定期検査中の原子力発電所を再稼働させるのであれば,福島第一原発事故の知見を踏まえて安全設計審査指針及び技術基準を改訂し,それぞれの原子力発電所が改訂された技術基準に適合していることを確認する必要があることを意味する。現在,安全設計審査指針は改訂されておらず,これと連動する形での技術基準の改訂もされていない。

4 政府の姿勢

しかし,政府は,安全設計審査指針及びこれと連動する形での技術基準の改訂を待たないで,定期検査中の原子力発電所を再稼働させようとしている。本年4月6日には,原子力安全委員会に諮ることもなく,首相を含む関係4閣僚の会合によって再稼働を認める際の新たな暫定的な安全基準が決定された。しかしながら,この暫定基準は,法的根拠を有するものではなく,また,極めて短時間で策定され,その妥当性について外部の専門家により十分議論されておらず,さらに福島第一原発事故の知見を十分反映させたものではない。また,その内容を見ても,例えば,免震棟の建設等の重要な対策については計画さえあればよいとしている等,実際に対策が施されるまで大地震や大津波がその原発を襲うことはないという根拠のない前提に基づいており,その合理性は全くない。

そうすると,安全審査指針及びこれを前提とする技術基準の改訂を待たずに,法的根拠のない暫定的な安全基準をもって再稼働を推し進めていこうとする政府の姿勢には看過しがたいものがある。

5 結論

大飯原子力発電所を含む若狭の原発群でひとたび過酷事故が起これば,福井県民のみならず,滋賀県民140万人の生命と身体の安全を危険に曝すことになり,また,大阪,京都の水源となっているびわ湖を汚染することにもなる。事故が起こった場合の影響ははかり知れない。原子力発電所は安全性が十分に担保されるまでは,再稼働が認められるべきでない。

そこで当会は,政府に対して,大飯原子力発電所3,4号機の再稼働を妥当とする判断を直ちに撤回し,福島第一原発事故の知見を踏まえた安全設計審査指針及び技術基準の改訂が行われ,改訂された技術基準への適合性が確認されるまで,大飯原子力発電所3,4号機を再稼働させないことを強く求める。

以上