滋賀弁護士会について

会長決議・声明

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入を求める決議

当弁護士会は、我が国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、「自由権規約」)をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を早期に導入することを政府及び国会に対し強く求める。

以上のとおり決議する。

決議理由

個人通報制度とは、自由権規約等をはじめとする人権条約で保障された権利を侵害された者が、国内の裁判等の手続を尽くしても権利の回復がされない場合に、各条約の定める国際機関に直接救済の申し立てができる制度である。

多くの人権条約が条約上の権利の確保を実効化するために、各々個人通報制度を設置しているところ、この制度を我が国が受け入れるためには、自由権規約、女性差別撤廃条約等においては、本体である人権条約の加入とは別に個人通報制度を定める選択議定書を批准する手続きが必要であり、また人種差別撤廃条約等においては本体条約中にある個人通報条項を受諾宣言する必要がある。しかし、我が国は、いずれの選択議定書への批准および個人通報条項の受諾宣言もしていない。

諸外国の状況については、自由権規約の選択議定書を批准している国は114カ国、女性差別撤廃条約の選択議定書を批准している国は104カ国にのぼる。また、OECD加盟国34カ国のうち、個人通報制度をもたない国は、我が国を含む2カ国のみであり、さらにG8サミット参加国のなかでは、唯一我が国のみがいかなる個人通報制度も有しない(本段落につき、2012(平成24)年4月現在)。

我が国は、自由権規約をはじめとする多くの人権条約に加入しているところ、これまで我が国の裁判所は、憲法−条約−法律−命令という序列のもと我が国の法令の解釈にあたっては憲法のみならず条約適合性をも考慮しなければならないのはむしろ当然のことであるにもかかわらず、条約上の権利保障条項の適用に積極的とはいえず、我が国が加入している人権条約が定める国際人権条項の国内実施状況は極めて不十分なものとなっている。

例えば、婚外子に対する相続差別規定(民法900条4号但書前段)に関しては、日本政府は、これまで自由権規約委員会等からあらゆる差別の撤廃等を規定した自由権規約2条、24条等の条項に合致するよう、婚外子に対する差別的な規定を除去するよう勧告を受けてきたにもかかわらず、日本政府はなお婚外子差別規定を容認しており、最高裁判所は、同規定が憲法14条1項に反しないとした最高裁大法廷平成7年7月5日決定以来、同規定の合憲判断を続けている。その他にも、日本政府は、これまで国連人権条約機関による審査において、死刑制度、代用監獄や密室での取調べ等刑事司法制度全般、外国人に対する差別、女性に対する差別的規定などについて改善するよう勧告等を受けてきたにもかかわらず、これらの勧告を十分履行しているとは言い難い状況である。

各人権条約における個人通報制度が我が国に導入されると、裁判所は、判決後に個人通報がなされ、自由権規約委員会等条約上の国際機関による勧告によって判決に対する人権条約違反の指摘がなされる場合があることを事実上想定しなければならないため、条約上の国際機関の一般的意見等国際的に通用している権利条項の解釈について目を向けざるを得ず、その結果として、我が国における裁判の内容が条約上の権利を踏まえたものに大きく変わり、ひいては立法、行政においても国際的な人権基準を踏まえた法律改正、法律の運用を促す契機になり、我が国における人権保障水準が国際水準にまで前進することが期待される。

当弁護士会では、これまで人権救済申立てに対する調査及び警告勧告等の措置を講ずるなど人権擁護活動に真摯に取り組んできたところである。

そこで、当弁護士会は、我が国における人権保障を推進し、国際的水準での人権保障の実施を確保するため、自由権規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を早期に導入することを政府及び国会に対し強く求めるものである。

以上

2013(平成25)年1月16日
滋賀弁護士会
会長  荒川 葉子