滋賀弁護士会について

会長決議・声明

秘密保全法制定に反対する会長声明

1 はじめに

2011年(平成23年)10月,政府における情報保全に関する検討委員会は,同年8月8日付「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を受けて,秘密保全法制法案化作業を進めることを決定した。

しかし,秘密保全法案(仮称)は,以下に述べるとおり,憲法上の諸規定に抵触するおそれが高い。また,有識者会議の議事録が作成されず,議事メモも廃棄したと説明される等,その検討過程の多くが不透明なままである。

当会は,2012年(平成24年)11月3日,沖縄密約事件の当事者である西山太吉氏らを招き,シンポジウムを開催した。同シンポジウムにおいて,西山氏は,沖縄返還協定に絡む日米間の密約の存在を否定し続けてきた政府の姿勢からすれば,秘密保全法案は,政府にとって都合の悪い情報を隠蔽するためのものであると考えられること等を指摘した。また同シンポジウムにおいては,秘密保全法案が,情報公開の流れに逆行するものであること,メディアの取材の自由に対して萎縮的効果をもたらす危険性を持つこと等多数の問題点があることも浮き彫りとされた。

そこで,当会は,秘密保全法案を到底容認することはできず,本声明を発する次第である。

2 立法事実の不存在

秘密保全法を制定しようとする動きのきっかけとなったとされる尖閣諸島沖中国漁船衝突映像流出事件は,国家秘密の流出などとは到底言えない事案であった。また,前記報告書には,秘密保全法制の必要性を基礎付けるため,「主要な情報漏洩事件の概要」が資料として添付されているが,情報漏洩に関してはいずれも国家公務員法100条(罰則同109条)や自衛隊法59条(罰則同118条)等の現行法制で十分に対処できるものであり,新たな法制を設ける必要性はない。

3 国民の表現の自由との抵触

報告書によれば,禁止行為の一つに,「特別秘密」に対する「特定取得行為」がある。ここで,「特別秘密」とは,国の安全,外交,公共の安全及び秩序の維持の3分野において各行政機関が特に秘匿を要するものとして指定したものとされる。

かつて廃案となったスパイ防止法の対象範囲は,国の安全,外交であった。そして,報告書は,これに「公共の安全及び秩序の維持」を付加している。これは極めて広範囲,かつ,その外延も不明確なものである。そこで,報告書は,自衛隊法の別表方式によって限定列挙をすることが適当とする。しかし,自衛隊法の別表方式も,概括的網羅的であるから,同様の方式では何ら限定にならない。

また,秘密指定権者は当該秘密を作成・取得する各行政機関とされている。これに対して,第三者によるチェックの仕組みは何ら想定されていない。時の権力者の恣意的な権限行使により,表現の自由が著しく制約されることは,沖縄密約事件からも明らかである。

次に,「特定取得行為」には,社会通念上是認できない行為を手段として特別秘密を取得する場合も含まれるものとされる。

しかし,通常の判断能力を有する一般人の理解において,いかなる場合にそれに当てはまるのか,適用基準が不明確である。

さらに,故意による漏えい行為のみならず,過失による漏えい行為,共謀行為,独立教唆行為及び扇動行為をも処罰対象としており,秘密保全法案の想定する禁止行為は過度に広汎である。

このように,過度に広汎で漠然とした規制がなされた場合,取材・報道の自由を含む表現の自由に対して,萎縮的効果が及ぶ。その結果,取材・報道が差し控えられると,国民の知る権利は大きく損なわれる。

4 国民の裁判を受ける権利の形骸化

仮に,秘密保全法違反により起訴された場合,当該被告人の地位は,公開裁判の原則との間で緊張関係に立たされる。

公開の裁判で特別秘密の内容が明らかになれば,もはやそれは秘密ではなくなる。そこで,ある情報を特別秘密にした理由と秘密指定の適切さが立証されることにより,当該秘密が実質秘であることが推認される等の外形立証の方法を検討せざるをえなくなる。しかし,これでは被告人の防御の対象は極めて不明確なものとなる。

さらに,弁護人による防御活動も共謀行為,独立教唆行為等に問われるおそれがある。これにより弁護活動が萎縮すると,被告人は適正手続により裁判を受ける権利を十分に享受しえなくなる。

5 国民のプライバシー権との抵触

報告書によれば,秘密情報を取り扱わせようとする者について,秘密情報を取り扱う適性を有するかを判断するための適性評価制度が導入されようとしている。これにより,行政機関において特別秘密を作成・取得する業務に従事する者のみならず,特別秘密を取り扱う民間事業者,対象者本人以外にもその身近にあって対象者の行動に影響を与えうる者も,我が国の利益を害する活動への関与,外国への渡航歴,犯罪歴,懲戒処分歴,信用状態,薬物・アルコールの影響や精神の問題に係る通院歴等について調査される可能性が存する。

こうした調査事項は極めてセンシティブな情報であり,プライバシー侵害及び思想・信条の自由が侵害される危険性がある。

そこで,報告書は,対象者の同意を得ることが肝要とする。しかし,仮に対象者本人の同意が形式的に存しても,組織内における差別的取扱いのおそれがあり,実質的に対象者の自由意思が確保されたものとは言えない。

さらに,平成19年8月9日カウンターインテリジェンス推進会議決定に基づき,平成21年4月1日から実施された秘密取扱者適格性確認調査が実施されたところ,これは対象者の同意なしに行われたことが明らかとなった。かかる事実からすれば,同意を得る手続が履践されること自体に疑念を持たざるをえない。

6 結論

以上の理由より,当会は,日本国憲法を尊重する立場から,秘密保全法案の作成を直ちに中止することを強く求めるものである。

2013(平成25)年1月17日
滋賀弁護士会
会長  荒川 葉子