滋賀弁護士会について

会長決議・声明

特定商取引に関する法律の改正にあたりDo-Not-Knock制度・Do-Not-Call制度の導入を求める意見書

第1 意見の趣旨

特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という。)の改正にあたり、不招請勧誘(消費者から勧誘の要請がないのに、業者が訪問や電話により、一方的に行う勧誘)規制を強化し、以下の立法措置を講ずることを求める。

予め、訪問又は電話による勧誘行為を拒絶する意思を表示している消費者に対しては、訪問又は電話による勧誘行為を禁止するという勧誘拒絶制度を導入すべきである。

具体的には、訪問販売においては、訪問による勧誘行為を拒絶する意思を有する消費者が、戸口等、訪問による勧誘を行おうとする事業者が視認可能な場所に掲示・貼付する行為があった場合に、事業者は訪問による勧誘をしてはならないものとすべきである(ステッカー方式のDo-Not-Knock制度)。

また、電話勧誘販売においては、電話による勧誘行為を拒絶する意思を有する消費者が電話番号を予め登録した場合に、事業者はその登録のあった電話番号には電話による勧誘をしてはならないものとすべきである(Do-Not-Call制度)。

上記1の制度を導入するにあたっては、その規制に反する勧誘行為を効果的に抑止するため、罰則を設けるとともに、必要な行政処分を行えるものとすべきである。

また、規制に反してなされた勧誘行為によって締結された契約については、消費者が無効、取消し又は解除を主張することができるものとすべきである。

第2 意見の理由
1 不招請勧誘を規制する必要性が高いこと

不招請勧誘は、勧誘される者にとって、多くの場合、私生活の平穏やプライバシーを害される迷惑な行為である。現に、消費者庁が2015(平成27)年5月13日に発表した「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査について」によれば、消費者の96%以上が訪問勧誘・電話勧誘を「全く受けたくない」と回答している。

そもそも、商品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保されるべきであるところ(消費者基本法第2条第1項)、勧誘を受けるかどうかについては、消費者の自己決定権の下に位置付けられるものと考えられる(「消費者基本計画」2015(平成27)年3月24日閣議決定)。そうであれば、勧誘を受けたくないという消費者の意向を踏まえることのない事業者からの勧誘はなされるべきではないといえる。

また、不招請勧誘は、悪質商法の温床になっている。不招請勧誘は、不意打ち的で一方的な勧誘となりがちであり、しかも、衆人の目の届かない密室で行われることが多いため、不招請勧誘をきっかけとして、消費者が不正・不当な取引きに巻き込まれる危険がある。このような危険を回避するためにも、不招請勧誘を規制すべきといえる。

したがって、不招請勧誘を規制する必要性が高い。

2 現行法による規制が不十分であること

この点、現行の特定商取引法は、訪問販売及び電話勧誘販売について、訪問又は電話による勧誘を受けた消費者が、勧誘にかかる契約を締結しない意思表示をした場合には、当該消費者に対し、当該契約の勧誘を継続する行為や、当該契約の再勧誘をする行為を禁止している(第3条の2第2項、第17条)。

ところが、消費者が「訪問販売お断り」などと書かれたステッカーを玄関ドア外側に貼るなどして、予め、包括的に、事業者からの勧誘行為を拒絶する意思を表明していたとしても、そのような行為は、上記の勧誘にかかる契約を締結しない意思表示とは認められていない(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針―再勧誘禁止規定に関する指針―」)。

それゆえ、消費者が、予め、包括的に、訪問及び販売による勧誘行為を拒絶する意思を表明していた場合であっても、特定商取引法第3条の2第2項、第17条の適用はなく、消費者の勧誘を受けたくないという意思を無視した訪問勧誘、電話勧誘が許容されているのが現状である。

これでは、訪問勧誘、電話勧誘を受けたくない消費者であっても、それらを事前に拒絶・回避する手段が現行法上一切ないため、事業者からの勧誘への応答を否が応でも強いられることになってしまう。そして、一旦勧誘が始められてしまうと、不意打ち的な勧誘であることや、事業者と消費者との間に交渉力の格差があることから、消費者が勧誘・契約を断ることが困難となり、不本意な契約を締結させられる危険が生じるといえる。

こうした不本意な契約を締結させられる危険は、高齢者のみの世帯や、高齢者のみが自宅にいる時間が長い世帯において、より顕著であるといえる。にもかかわらず、そうした高齢者が、事前に訪問勧誘、電話勧誘を拒絶・回避することができず、事業者からの勧誘に応答せざるを得ない現状は、誠に不合理と言わざるを得ない。

以上のように、現行の特定商取引法は、高齢者をも含めた消費者の自主的かつ合理的な選択についての配慮が不十分であり、今後、ますます高齢化が進むわが国において、訪問販売及び電話勧誘販売における消費者被害が増加することが強く危惧される。

3 不招請勧誘規制を強化すべきであること

そこで、現在検討が進められている特定商取引法の改正にあたり、不招請勧誘規制を強化し、予め、訪問又は電話による勧誘行為を拒絶する意思を表示している消費者に対しては、訪問又は電話による勧誘行為を禁止するという勧誘拒絶制度を導入すべきである。

具体的には、以下に述べるような制度を導入すべきである。

4 ステッカー方式のDo-Not-Knock制度

Do-Not-Knock制度(訪問勧誘拒否制度)は、訪問販売の勧誘を受けたくない消費者が、戸口等に「訪問販売お断り」などと記載されたステッカーを貼付する方式(ステッカー方式)、あるいは、公的な拒否登録簿に住所を登録する方式(レジストリー方式)によって勧誘を拒絶する意思を表明し、これらがなされた住所への勧誘を禁止するものである。

海外では、訪問販売の勧誘については、オーストラリアやアメリカ合衆国の多くの地方自治体等において、訪問販売を拒否するステッカーを無視した勧誘を罰則付きで禁止している。アメリカ合衆国の地方自治体では、レジストリー方式を採用する例もある。

Do-Not-Knock制度を導入するにあたっては、レジストリー方式よりも、ステッカー方式の方が、消費者の意思表明に手間がかからず、また、登録機関創設・維持運用のコストも省けるので、より好ましい。ただし、消費者の勧誘を拒絶する意思を明確にすべきとの観点から、レジストリー方式によることや、レジストリー方式とステッカー方式を併用することも検討されてよいと考えられる。

5 Do-Not-Call制度

Do-Not-Call制度(電話勧誘拒否登録制度)は、電話勧誘を受けたくない消費者が、その電話番号を登録し、事業者が登録された番号に対して電話勧誘を行うことを法的に禁止する制度である。

アメリカ合衆国、アルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、シンガポール、スペイン、ノルウェー、ベルギーなど多くの国々で、Do-Not-Call制度が導入されている。

諸外国におけるDo-Not-Call制度においても、事業者が、登録機関に登録をしている電話勧誘拒否者の電話番号の開示を要求し、登録機関がこれを事業者に開示する方式(リスト開示方式)と、事業者が手持ちの電話番号を登録機関に照会し、電話勧誘拒否の登録をしていない電話番号を事業者に開示する方式(リスト洗浄方式)がある。

リスト開示方式では、事業者からリストが流出・漏洩するする危険があり、また、消費者は自身の電話番号が事業者に開示されることを望まないと考えられることから、リスト洗浄方式を採用することが妥当と考えられる。

6 実効性確保のための制度

Do-Not-Knock制度・Do-Not-Call制度を導入するにあたっては、制度の実効性を確保するために、違反に対しては、行政処分及び罰則を設けることが必要である。

さらに、制度の実効性を確保し、違反した事業者に不当な利得を保有させず、違法な勧誘の被害者が被害を回復できるようにするため、規制に違反した勧誘行為によって契約が締結された場合、被害者が当該契約の無効、取消し又は解除を主張することができるという民事規程を導入することが必要である。

7 上記の規制が営業の自由を侵害するものではないこと

なお、Do-Not-Knock制度・Do-Not-Call制度の構想に対しては、事業者から、営業の自由を侵害する規制であるとの批判がある。

しかし、現行の特定商取引法においても、消費者が勧誘にかかる契約を締結しない意思表示をした場合には、勧誘の継続や再勧誘が禁止されているのであって、営業の自由も無制限に許されるものではない。そもそも、訪問勧誘、電話勧誘を受けたくない消費者に対し、その意向を無視して勧誘を行うことは、保護に値する「営業の自由」に含まれないというべきである。

したがって、Do-Not-Knock制度・Do-Not-Call制度が営業の自由を侵害するものではないことは明らかである。

事業者からの上記批判は、勧誘を受けたくない消費者の生活の平穏やプライバシーを侵害してでも勧誘を行う自由が保障されるべきであると主張しているに等しいものであり、合理性を到底認め難いものである。このような不合理な批判に配慮して、Do-Not-Knock制度・Do-Not-Call制度の実現を断念することがあってはならないというべきである。

2015(平成27)年11月12日

滋賀弁護士会
会長 中原淳一