滋賀弁護士会について

会長決議・声明

死刑廃止を求める決議

1 死刑制度に対する基本的な考え方

日本の刑法は,今も刑罰の種類としての死刑を残している。実際,毎年いくつもの死刑判決が出され,毎年執行もされている。

日本弁護士連合会は,2011(平成23)年10月7日,高松市における第54回人権擁護大会において,死刑のない社会が望ましいことを見据え,死刑廃止について全社会的議論を開始することを呼びかける宣言を行った。当会も,かねてより学習会やシンポジウムなどを行い,死刑制度のあり方について,議論を重ねてきた。

われわれ弁護士は,刑事裁判を通じて,罪を犯す人がどういう生活をし,どういう人生を送り,なぜ罪を犯すことになったのかを日々考える立場にある。生育歴やおかれた環境が劣悪で,そのことが生活態度や境遇にも影響を与え,結果として罪を犯すことにつながっていくことは,われわれ弁護士がいつも経験するところである。罪を犯せばその責任は取らなければならない。しかし,本人の責めに帰すことのできない部分は必ずある。すべての責任をその人の人格や性格だけのせいにすることはできないのである。

環境的な要因が犯罪に影響を与えるのであれば,われわれは環境を改善することで更生を支援する努力をすべきである。どんな事件をおこした人物であっても,そこに至った背景に思いをいたし,どんな人間も変わりうることを信じ,更生のための努力を放棄しないことこそ,われわれが追求すべき刑事司法のあり方である。

死刑は,更生の途を絶ち,その人をこの世から排除する刑罰である。犯罪の原因をすべて本人ひとりに求め,その存在をこの世から抹殺することで問題を解決したかのようにしてしまう。そこには,その人を重大犯罪に駆り立てた社会的要因に対する顧慮はない。

私たちが目指すべき社会は,罪を犯した人が社会の一員として復帰できるよう助け共生できる社会である。罪を犯した人を,社会から排除することに主眼を置き,場合によっては生命を奪って完全に排除する社会ではない。われわれは,罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく,処遇や更生制度を根本的に改革し,福祉との連携を図り,すべての人が尊厳を持って生きることのできる社会を目指すべきである。死刑制度は,そのようなあるべき社会の姿と相容れない。

2 死刑廃止に関する論点

死刑廃止については多くの論点が提示されてきた。われわれも,これまでに多くの議論を重ねてきた。

(1)

政府は,世論調査で国民の多くが死刑制度を支持していると主張し,死刑制度を見直すようにという国際連合からの要請を拒絶している。世論調査がそのような結果を示す背景には,凶悪事件が増加しているという,国民の認識があるものと思われる。しかし,実際には,凶悪事件は増加していないし,日本の凶悪事件の発生率は,世界的にみてもきわめて低いのである。

また,日本では,死刑に関する情報は徹底的に秘密にされている。死刑囚が拘置所の中で毎日どのように過ごし,どのような過程で執行対象者が選ばれ,具体的にどのように死刑が執行されるのか,国民には知らされていない。

このように,十分な情報が開示されないままに実施されている世論調査は,漠然とした国民の印象を集めたものに過ぎず,これを死刑制度維持の論拠にすべきではない。

(2)

死刑制度を廃止すると,凶悪犯罪を抑止できなくなるという意見もある。しかし,実際に死刑制度を廃止した国で,凶悪犯罪が増加したという事実は報告されていない。死刑制度に犯罪抑止力があることは実証されていない。死刑が凶悪事件の発生を防いでいるというのも,裏づけのない想像の話でしかない。

(3)

2014(平成26)年3月,静岡地裁は,袴田巌さんに対し,再審の開始と死刑の執行を停止する決定をした。決定は確定してはいないものの,誤って無実の人を死刑にしてしまうおそれがあることが,またもや明らかになった。袴田事件以外にも,死刑判決が確定した後に再審で無罪となった事件は4件もある。裁判も人間が行うものである以上,誤判の危険性を完全に排除することはできない。われわれ弁護士は,裁判には常に誤判の危険があることを誰よりもよく知っている。イギリスでは,死刑が執行された後に,無実が証明された事件が現実に起き,そのことが死刑廃止の契機となった。誤判・えん罪により現実に無実の者が国家刑罰権の行使により生命を奪われることは,取り返しのつかない人権侵害である。誤判のリスクを顧みずに死刑を行い続けることはもはや許されない。

(4)

被告人に対し,犯罪被害者の遺族が極刑を望むのは無理もないところかもしれない。しかし,必ずしもすべての遺族が死刑を望むわけではないし,刑種の選択と量刑の決定にあたり,被害者や遺族の感情を考慮するとしても,それを決定的な要素とすることはできない。いうまでもなく,犯罪によって失われた被害者の命もかけがえのないものであり,このような犯罪を未然に防ぐことは社会全体で取り組むべき問題である。また,遺族の被害感情にも配慮しつつ,遺族を含む犯罪被害者に対する支援を行うことは当会を含めた社会全体の責務であって,被害者や遺族に対しては,精神的・経済的支援体制の充実や修復的司法の取り組みなど,多面的な対策を講じるべきである。当会も,いままで以上に,犯罪被害者に対する支援に取り組む覚悟である。被害者や遺族に対する支援が必要であるということと,死刑制度を廃止することとは矛盾するものではない。被害者や遺族の感情を理由に死刑制度を維持するのではなく,死刑制度を廃止しつつ,被害者支援を充実させるべきであると考える。

(5)

死刑を廃止又は停止している国は140か国にものぼっており,昨年1年間で実際に死刑を執行したのはわずか25か国にとどまる。先進国とされるOECD加盟国の中でみると,死刑を執行しているのはアメリカ合衆国の一部の州と日本だけであり,しかもアメリカ合衆国では,死刑は縮小される方向にある。ところが,日本だけは,今なお死刑廃止の方向性が打ち出されていないばかりか,死刑判決の数も,死刑執行の数も,減少する気配は見られない。死刑廃止は国際社会の大きな流れといってよく,日本は国際連合からもたびたび死刑執行の停止を要請されている。この分野では,日本はすでに国際的に孤立しつつある。

3 死刑制度の廃止に向けて

死刑を行うということは,この世に生きる値打ちのない生命があるということを国家が正面から宣言することにほかならない。私たちが目指すべきは,罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく,すべての人が尊厳を持って共生できる社会である。そして,死刑が,非人道的刑罰であること,罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪うこと及び裁判は常に誤判・えん罪の危険をはらんでおり無実の者が生命を奪われる危険性があることを踏まえ,われわれは死刑のない社会が望ましいと考えるものである。

当会は,ここに死刑制度は廃止されるべきであるという立場をあきらかにし,関係機関に対し,そのための取り組みをただちに開始することを求める。


以上,決議する。

2016(平成28)年9月27日

滋賀弁護士会